技術解説

伝熱工学で扱う熱移動の3形態(熱伝達・熱伝導・ふく射伝熱)

2024.02.14

伝熱工学で扱う熱移動の3形態(熱伝達・熱伝導・ふく射伝熱)

熱力学は、ある系で起こる状態変化の前後に着目して考えるから、状態変化の過程は考えない。しかし実際には、状態変化の前後における平衡状態だけでなく、状態変化の過程である熱移動についても考慮する場面が多い。伝熱工学はこの熱移動を扱う学問であり、私たちの日常から産業界までの広い範囲で観察されるさまざまな熱移動の問題を取り上げ、熱移動量や移動速度などを明らかにする。伝熱工学では、熱の移動形態を熱伝導、熱伝達、ふく射伝熱に分けて扱うことから、それぞれの形態について下記に解説する。

1. 熱移動の3形態

熱移動には、熱伝導、熱伝達、ふく射伝熱の3形態があり、熱移動現象を取り扱う際の基本となっている。

1-1. 熱伝導

熱伝導とは、固体または静止している流体の内部において高温側から低温側へ熱が伝わる伝熱形態のことである。この現象は、物体の自由電子の移動や原子・分子の格子振動によって熱が運ばれることに起因する。また、熱伝導は同一物体内だけでなく、接触している温度の異なる2つの物体間においても起こる。
工業的なあらゆる伝熱問題において、対流熱伝達やふく射伝熱が支配的な系であっても、ほとんどの場合、熱伝導が関与している。ボイラや熱交換器の壁、エンジンの冷却フィン、厚肉タービンのケーシング壁、発熱する機器の放熱壁や放熱フィン、加熱炉の断熱壁などに熱伝導が関わっている。

1-2. 熱伝達

熱伝達とは、固体壁と固体壁の表面に沿って流れる流体との間で熱移動がおこなわれる伝熱形態のことで、対流熱伝達ともいう。
対流熱伝達における流体の速度と温度は、接触面からの影響を受ける。接触面では伝熱面からの影響が最も大きく、接触面から離れるほど伝熱面の影響は小さくなる。このような伝熱面からの影響を受ける範囲を境界層といい、境界層には速度境界層と温度境界層がある。熱は流体側に生じる境界層を通じて固体壁に伝わるか、もしくは固体壁から流体に伝わる。

1-3. ふく射伝熱

ふく射伝熱とは、物体から放射される電磁波によってエネルギーの伝播がおこなわれる伝熱形態のことである。すべての物体を構成する分子や原子は、物体の温度(絶対温度)に応じて激しく運動している。この運動によって、物体からはあらゆる波長の電磁波が放射される。電磁波の中で伝熱に関係するのは、0.4~100【μm】の波長領域のもので、可視光線と赤外線の範囲にほぼ重なっている。この領域の電磁波は熱や光として検出され、熱ふく射という。

波長による電磁波の分類と熱ふく射の領域の画像

図1. 波長による電磁波の分類と熱ふく射の領域

2. 水管ボイラの伝熱モデル

熱力学第二法則で表現されるように、熱は自然の状態では高温物体から低温物体へ伝わる。たとえば、図2のように、水管ボイラを燃焼室内にあるバーナーの燃焼ガスで加熱して、水管内の水の温度を上昇させる場合、燃焼ガスの熱はどのように水に伝わるのだろうか。

水管ボイラの画像

図2. 水管ボイラ

図3は、水管ボイラの伝熱モデルである。燃焼ガスの熱が水に伝わる様子を表している。

ボイラ水管の伝熱の画像

図3. ボイラ水管の伝熱

2-1. 水管の熱伝導

水管の管壁部の外面は燃焼ガスに接しているため高温であり、内面は水に接しているため低温である。燃焼ガスの熱は管壁内部を高温側から低温側に移動する。このような伝熱形態を熱伝導という。
熱が物体内を伝わるとき、定常状態の熱流束q【W/m^2】はフーリエの法則により次式で表される。

式1

ここでdT/dxは熱流方向への温度勾配であり、比例定数λ【W/(m・K)】は物体の熱伝導率である。

2-2. 燃焼ガスから水管外面壁、水管内面壁から水への熱伝達

燃焼ガスから水管の外面壁へ熱が伝わる、あるいは水管の内面壁から水に熱が伝わる場合のように、運動している気体または液体から固体壁へ、あるいは逆に固体壁から気体または液体に熱が伝わる伝熱形態を熱伝達という。
熱伝達は対流熱伝達ともいい、熱は気体または液体側に生じる境界層を通じて壁に伝わる。
対流熱伝達は、気体または液体の運動(対流)の状態によって、自然対流熱伝達と強制対流熱伝達に分けられる。対流が流体の密度差により生じる場合を自然対流熱伝達といい、対流が送風機やポンプなどの外力により生じる場合を強制対流熱伝達という。
対流熱伝達の場合、熱流束はニュートンの冷却法則で表される。

式2

Twは壁面温度,T∞は物体から十分離れた場所の流体温度である。図3では、TwはTw1,Tw2を、T∞はTgas,Twaterを表している。
h【W/(m^2・K)】は熱伝達率といい、対流の強さや流体の種類によって変化する値である。

2-3. 燃焼ガスから水管外面壁へのふく射

高温の燃焼ガスからボイラ水管の外面壁へ熱放射線によって直接に熱エネルギーが移動する場合、熱エネルギーは中間の物質とは無関係に、赤外線や可視光線を含む電磁波である熱線の形で伝達される。このような伝熱形態を熱ふく射(もしくは熱放射)と呼ぶ。熱線の一部は、それが衝突した物体の表面や内部で吸収され、残りは反射される。
絶対温度が0【K】でないすべての物体は、物体内部の分子運動によりその温度に応じて熱エネルギーを電磁波の形で放出しており、これを熱ふく射という。
表面に到達するふく射熱を全て吸収する物体を黒体という。温度T【K】の黒体が放出するふく射熱流束Eb 【W/m^2】は、ステファン・ボルツマンの法則により次式で表される。

式3

ここで、σ=5.67×10^(-8)【W/(m^2・K^4)】はステファン・ボルツマン定数である。一般物体のふく射熱流束Eは次式となる。

式4

ここで、εはふく射率である。ふく射率は物体の表面性状や温度により変化する値である。二つの物体間の正味ふく射熱量は、吸収熱量から放出熱量を差し引いたものとなる。

2-4. 熱通過

一般の熱移動では、上述の伝熱形態を合わせて考えるのが普通である。このような複合された熱の移動形態を熱通過と呼ぶ。
図3に示したボイラの伝熱形態は、ガスから管壁外面への熱ふく射と対流熱伝達、管壁内の熱伝導、管壁内面から水への対流熱伝達の4つが複合している。
伝熱面に熱輸送媒体が存在する場合は、熱ふく射と熱伝導、熱伝達が共存するが、一般的に伝熱面温度が常温付近である場合はふく射熱流束が無視でき、高温になるにつれて熱ふく射が優位となる。

 

伝熱現象には、沸騰、凝縮、凝固、融解、昇華、蒸着などの相変化と伴うものもあるが、基本的には、熱伝導、熱伝達、ふく射伝熱の3形態で取り扱うことができる。

 

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