コラム

化学プラントにおける設備保全管理の留意点

2024.02.26

化学プラントにおける設備保全管理の留意点

1. 設備保全管理のサイクル

化学プラントの建設完成後は、重要度分類により各機器の保全方式を決め、点検整備の周期や内容、更新計画などの保全計画を立案する。保全計画は的確に実行し、履歴を管理する。また、各設備の点検整備結果から余寿命などを予測し、点検整備周期・点検内容および更新計画の見直しを行う。これが定常の保全サイクルである。
一方、故障トラブルが発生すれば、徹底して原因究明し、類似設備含め再発防止策を講じる。また防止策の中で保全計画や設備設計に関わるものは、フィードバックを行う。こちらは非定常の保全サイクルである。
これらの保全管理のサイクルをフローにしたものが図1であり、この一連の体系を全て設備管理システムに落とし込むことが理想である。以降それぞれ項目の重要な留意点を述べる。

保全管理の体系図

         図1. 保全管理の体系図

2. 機器重要度分類

一般的に化学プラントは高温高圧、腐食性物質を取り扱うなどの厳しい環境下にあるので、老朽化・腐食・劣化の監視対象は非常に多くある。検査対象、箇所、周期、手法などが適切に定められ、的確に検査・補修・寿命予想・更新が行われるべきである。しかし、プラント内の機器は何万点にもなるため、精度の高い優先順位付けが必要となる。
点検整備の優先順位は、リスクアセスメントによる重要度評価、具体的には法規制を大前提とし、故障した場合の環境防災上・生産上・品質上の影響度を機器ごと(場合によっては部品ごと)に点数化して、適切に設定する。方法論としては、HAZOP、FMEA等の手法などがあり多くの労力を要す。

3. 保全方式

保全方式は、機器重要度により予防保全と事後保全に分けられる。 予防保全とは、機械・設備の故障や不具合を防ぐために、定期的に点検や修理を行う保全方式であり、状態基準保全と時間基準保全がある。状態基準保全はオンライン振動・腐食監視や運転データ分析により不具合を運転中に連続的に検出可能なものとする。逆にこれが不可能なものは時間基準保全(日常点検や定期点検整備)とする。定期点検には、超音波探傷、磁粉探傷、浸透探傷、放射線探傷、過流探傷など様々な非破壊検査が行われる。
事後保全とは、故障や不具合が発生してから対処する保全方式である。なお、事後保全であっても、予備機器へ切替えして生産を止めずに保全ができるような場合は、計画事後保全として予防保全に含める考え方もある(図2の右側)。

保全方式の画像

図2. 保全方式

4. 設備更新計画

設備の老朽化更新コストは大規模なものとなるので、補修による延命対策や寿命延長対策も必要である。ただし、検査等により致命的な欠陥・老朽化が発見された場合は、躊躇なく更新しなければならない。またライフサイクルコストにより、更新時の寿命延長対策および高効率・高性能化も省エネのためには欠かせない。

5. トラブルの本質原因究明,再発防止対策,類似設備へ展開

トラブル発生時には、トラブルの本質原因にたどり着くことが最も重要である。応急対策は必要だが、原因不明のままの対策先行ではトラブルが再発し非効率である。
いかに原因追及を深めて調査・解析等ができるかがポイントであり、できれば定期的な検討会などの場が設けられ、何度もレビューを繰り返すことが望まれる。
原因究明には所謂なぜなぜ分析もよい方法であるが、あくまで手段であり、手順通りシンプルにやらないと変な深みにはまり、堂々巡りになる可能性もある。また、原因究明のための各種検査や損傷解析などの調査分析が大事である。
以上の通り、トラブル対応は原因究明・対策実行・水平展開まで時間を要するものである。

6. 今後の設備保全技術の課題

化学プラントの予防保全やトラブル原因究明のため大変重要である検査技術について、今後の課題を以下に提言したい。

(1)非金属材料の検査技術

化学プラントでは腐食性物質を取り扱うため、設備に繊維強化プラスティック(FRP)、テフロン・塩化ビニル・ゴムなど各種樹脂、カーボン、ガラスなどの非金属材料を使用することが多い。これらの材料は金属材料に比べ、検査、寿命予想手段が確立されていない場合が多いので、今後の開発が望まれる。
現在のところでは、FRPでは劣化による強化繊維とプラスティックの剥離に注目した超音波探傷や、ガラスでは腐食により表面が少しずつ侵食されることに注目した表面粗さ測定などが実用化されつつある。

(2)配管の検査技術

機器に比べて配管は更に膨大な数量があり、時間とコストの関係から、予防保全は適切なサンプル検査に頼ることがほとんどである。また配管は高所、狭所など点検しにくい箇所が多くあることからも、サンプリングの優先順位付けが大切であり、以下のようなサンプル検査が肝要である。
・断熱材下の雨水侵入による外部腐食:
 高温箇所(腐食速度が速い、ただし、100℃以上なら蒸発して腐食しない)
 雨水の滞留し易い箇所(サポート、フランジなど)
・内面エロージョン:
 気液混相流の発生個所、弁、エルボ、絞り、内部障害物などの流速変化点
なお、最新配管スクリーニング検査技術として、中性子水分計(断熱材下の水分の測定)、パルス過流探傷(PEC法)、ロングレンジガイド波法(配管長手方向の超音波探傷)などが実用化されつつある。

 

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