2024.03.13
日本国内には表1に示す電気保安4法と呼ばれる電気機器安全に関わる法律があり、各段階での規制を行っている。新製品の開発や輸入時は、これらの規制法との関係有無を調査・確認することが重要である。
表1. 電気保安4法
法律名 | 法の目的 | 規制段階 | 対象者 | 実施義務概要 |
---|---|---|---|---|
電気用品安全法 | 電気用品による危険及び障害発生を防止 | 製造,輸入,販売段階 | 対象製品を製造,輸入及び販売する事業者 | ・製造,輸入事業者の事業届 ・技術基準の適合検査 ・技術基準適合表示 |
電気工事士法 | 電気工事の欠陥による災害の発生防止 | 工事段階 | 一般用、自家用電気工作物の設置者及び電気工事有資格者 | ・電気工事従事者の資格及び義務 ・有資格者による電気工事 |
電気工事業法 | 電気工事業の適正な実施を確保 | 電気工事事業者 | ・事業登録 ・主任電気工事士の設置 ・電気用品の使用制限 | |
電気事業法 | 電気工作物の工事,維持及び運用を規制 | 工事・維持・運用段階 | 電力会社及び一般家庭を含む電力需要者 | ・事業用電気工作物に対する規制(保安規程の届出,主任技術者の選任,技術基準遵守等) ・一般用電気工作物に対する規制(技術基準遵守等) |
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電気用品安全法(以下、電安法と記す)の対象品は電力会社が供給する交流100V,200V等の商用電源に接続される電気用品等で、現時点では直流機器は対象となっていない。図1に示すように対象製品は特定電気用品(構造及び使用方法からみて、特に危険又は障害の発生する恐れが多い電気用品で現在116品目を指定)と特定電気用品以外の電気用品(現在341品目を指定)がある。
図1. 電安法における電気用品の対象範囲(出典:経産省資料)
電安法対象製品を製造、輸入又は販売を行う事業者が製品流通前に負う義務を表2に、製品流通後に国が取れる規制措置を表3に示す。輸入事業者(製品を通関させ国内に入れた事業者)は製造事業者と同様の義務を負うことに注意が必要である。また、対象事業者には表2,表3に示した項目の違反行為に対し、重大性判断により、リコールや罰金刑、懲役刑を課せられる。
表2. 製品流通前に対象事業者が負う義務
義務項目 | 義務内容 | 対象事業者 | 違反時の刑罰 |
---|---|---|---|
事業届出 | 事業開始日から30日以内に経産省大臣に届出する | 製造又は輸入者 | 30万円以下の罰金 |
技術基準適合義務 | ・設計が技術基準に適合すること ・技術基準の適合検査を実施し、結果を記録・保存する | ||
特定電気用品の適合検査 | ・上記の技術基準適合義務を履行する ・ダブルチェックとして、国に登録した検査機関の技術基準適合検査を受け、証明書を保存する | ||
PSEマークの表示 | 上記の届出と技術基準適合義務を履行後、技術基準適合表示(PSEマーク)を電気用品に表示する | 1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、又はその併科 | |
販売制限 | PSEマークを表示しないで販売又は販売目的の陳列をしない | 製造,輸入者又は販売者 |
表3. 製品流通後に国が行える措置
措置項目 | 措置内容 | 対象 事業者 | 命令違反時 の刑罰 |
---|---|---|---|
報告の徴収 | 事業者に対し、業務に関し報告を求める | 製造,輸入者又は販売者 | 30万円以下の罰金 |
立入検査 | 法に基づく立入検査を行う。製造,輸入事業者に対しては、国又はNITE(製品評価技術基盤機構)が、販売事業者に対しては国から委託された地方公共団体が行う | ||
製品提出命令 | 立入検査において、検査設備がない場合やその場において検査することが困難な場合は、期限を定めて製品の提出を求める | 製造,輸入者 | |
改善命令 | 技術基準適合義務違反時に、製造方法、輸入方法その他業務方法の改善に対し、安全上必要な措置をとることを命じる | - | |
表示の禁止命令 | 技術基準適合義務又は特定電気用品の適合検査違反時、若しくは改善命令に違反時は1年以内の期間を定めてPSEマーク表示を禁止する | 1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、又はその両方 | |
危険防止命令 | 販売制限(PSEマークを表示しないで販売又は販売目的の陳列をしない)違反時、又は技術基準不適合品を販売した時、危険及び障害の拡大防止に必要な場合は、回収を図る等の措置をとることを命じる | 製造,輸入者又は販売者 |
また、電安法が規定する電気用品への表示方法を図2,図3に示す。
図2. 特定電気用品での表示方法(出典:経産省資料)
図3. 特定電気用品以外の用品での表示方法(出典:経産省資料)
電気事業法では図4に示すように電気工作物を事業用電気工作物と一般用電気工作物に大別している。一般用電気工作物は「600V以下の電圧で受電し、その受電の場所と同一の構内において、その受電に係る電気を使用するための工作物であって、その構内以外の場所にある電気工作物と電気的に接続されていないもの」と定義されている。
図4. 電気工作物の体系(出典:経産省資料)
電気事業法の法体系は図5である。電気工作物の維持・運用に関わる具体的基準を経産省・通達「電気設備の技術基準の解釈」で規定している。
図5. 電気事業法の法体系(出典:経産省資料)
一般用電気工作物は保安規程の届出や電気主任技術者の選任等が不要であるため、一般家庭等に容易に設置できるが、表4に示す保安規則がある。
表4. 一般用電気工作物の保安規則
規制区分 | 保安規則内容 | 違反時の刑罰 |
---|---|---|
工事・製造段階 | 電気工事士有資格者が工事作業を行う | 3月以下の懲役又は3万円以下の罰金(電気工事士法14条) |
維持・運用段階 | ・基準適合命令 経産省大臣は一般用電気工作物が基準に適合していない場合は修理や改造等を命じることができる。 ・調査の義務 電力会社等の電気を一般用電気工作物に供給する者は、一般用電気工作物が基準に適合しているか調査しなければならない。 調査には竣工調査と定期調査(一般需要家では4年に1回以上、小中学校や病院等では毎年1回以上)があり、絶縁抵抗等の測定やパンフレットによる電気安全の啓蒙をする。 | 30万円以下の罰金(電気事業法120条) |
電気工事の欠陥による災害発生防止を図るために、電気工事士資格制度がある。表5に示すように電気工事士の資格区分により従事できる工事範囲が定められている。また、電気工事士法施行規則により表6に示す電気工事は電気工事士でなければ従事できないことに注意が必要である。
表5. 電気工事士有資格者が従事できる工事範囲
資格区分 | 従事できる工事範囲 | 備考 |
---|---|---|
第2種電気工事士 | 一般用電気工作物及び小規模事業用電気工作物に係る工事 | 電気工作物の定義は図4を参照 |
第1種電気工事士 | 上記及び自家用電気工作物係る工事 |
表6. 電気工事士による電気工事作業(出典:経産省資料)
電気工事業法(正式名称:電気工事業の業務の適正化に関する法律)は電気工事業を営む者対し、登録及び業務の規制を行うことにより、一般用電気工作物及び自家用電気工作物の保安確保を目的として制定されている。
一般用電気工作物及び自家用電気工作物に係る電気工事業を営む者に対しては表7に示す規制がある。工事に際してはPSEマークがない電気用品の使用を禁止し安全確保している。
表7. 一般用電気工作物及び自家用電気工作物に係る電気工事業者に対する規制
項目 | 内容 | 違反時の刑罰 |
---|---|---|
登録義務 | 経産省大臣又は県知事に対し登録届 | 1年以下の懲役若しくは10万円以下の罰金、又は併科 |
主任電気工事士の設置 | 第1種電気工事士又は3年以上の実務経験を有する第2種電気工事士を営業所毎に設置 | 3万円以下の罰金 |
電気工事士有資格者の使用義務 | ・自家用電気工作物の工事 → 第1種電気工事士 ・自家用電気工作物の特殊工事 → 特殊電気工事有資格者 ・一般用電気工作物の工事 → 第1種電気工事士又は第2種電気工事士 | 3月以下の懲役若しくは3万円以下の罰金、又は併科 |
電気工事を請負せることの制限 | 請け負った電気工事を当該電気工事に係る電気工事業を営む電気工事者でない者に請け負わせてはならない | |
電気用品の使用の制限 | 電安法による所定の表示がされていない電気用品でなければ工事に使用してはならない | 10万円以下の罰金 |
器具の備え付け義務 | 絶縁抵抗計,接地抵抗計,抵抗及び交流電圧測定可能な計器,低圧及び高圧検電器,継電器試験装置,絶縁耐力試験装置等を営業所毎に備え付ける | 3万円以下の罰金 |
標識の掲示義務 | 営業所及び電気工事の施工場所毎に見やすい場所に氏名又は名称,登録番号等の標識を掲示する | 1万円以下の過料 |
帳簿の備え付け義務 | 営業所毎に帳簿を備え、所要の事項を記載し5年間保存する |
電安法や電気事業法では技術基準を読み解く技術的知見も必要であり、経験のない製品を初めて製造、輸入または販売する場合は専門家による技術コンサルティングを受けることを推奨する。
株式会社英知継承では、本テーマに関して当該専門家による技術コンサルティング(技術支援)が可能です。下記よりお気軽にお問い合わせください。
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