コラム

化学物質の法規制と適正管理

2020.04.30

化学物質の法規制と適正管理

 

もくじ

  1. 1. 化学物質の概要
    1. 1-1. 化学物質とは
    2. 1-2. 化学物質の種類
    3. 1-3. 化学物質規制の背景
  2. 2. 化学物質に関する法規制状況
    1. 2-1. 規制(法整備)の概要
    2. 2-2. 法規制の適用範囲と規制対象者
    3. 2-3. 日本国内の法規制状況(各省庁の関係)
  3. 3. 化学物質の適正管理
    1. 3-1. 化学物質の情報の収集方法
    2. 3-2. SDSの概要
    3. 3-3. SDS作成と活用上の留意点

 

1. 化学物質の概要

1-1. 化学物質とは

現在の経済活動(産業活動)では原材料として多くの化学物質が使用されているが、それらは大別すると、天然物と合成物になる。(尚、放射性物質、医療用物質は別の法律体系に従うため、本資料では対象から除くことにした。)

化学物質分類の画像

これらの物質は非常に多くの有用性があり、なくてはならないものであるが、併せて大なり小なり危険有害性があると言われている。特にある一定以上の危険有害性がある場合、法制度で何らかの規制が定められているのが実情である。現在の経済活動では、数万種の化学物質が使用されているが、それらの危険有害性の種類や程度により規制されており、規制に基づき適切に管理されることが求められている。尚、これらの規制は年々厳しくなっている。
本記事ではこれらを背景として、法規制の状況及びその対応について分かり易く解説するものである。

1-2. 化学物質の種類

化学物質の種類を大きく分類すると、無機物/有機物の何れも含まれ、常温の状態で分類すれば気体/液体/固体と様々である。また、分子量で分類すれば低分子量のもの(モノマー)/高分子量のもの(ポリマー)/それらの中間的なオリゴマーなどがある。また、単体のもの/複数の混合物、溶液/分散状態のものなどあらゆるものが含まれる。対象となる化学物質は、前項で示したように、数万種類及ぶと言われている。

1-3. 化学物質規制の背景

基本的に化学物質の有用性を活かし、危険有害性を最小にするための活動は国際的に進められている。即ち、1992年のリオデジャネイロにおける「地球サミット」で審議され、国際的な枠組みが定められ、これに従って各国が対応していくことになった。更に10年後のヨオハネスブルグ会議でアジェンダ21として「2020年までに化学物質が人の健康・環境に及ぼす悪影響が最小にする方法で生産・使用すること」が定められた。(因みに、1992年は環境ISOと言われるISO 14000シリーズが制定された年でもある。)
即ち、化学物質の適正管理に関する国際的な枠組みとして次のプログラムが示され、各国が対応していくことになった。

A・・・化学物質のリスク評価に関する国際的評価の拡充・促進
B・・・化学物質の分類と表示の調和(SDS/GHS)
C・・・化学物質の有害性とリスク評価に関する情報交換
D・・・リスク低減対策の確立(RA)
E・・・各国の化学物質管理能力の強化
F・・・危険有害性の不法な国際取引の防止(バーゼル条約など)
G・・・国際協力の強化

この基本的な考え方に基づき各国が対応することになり、各国内で法律の制定、改正が進められている。従って、各国で多少の相違点はあるものの各国の事情を考慮した法規制の体系化が進められている。

2. 化学物質に関する法規制状況

2-1. 規制(法整備)の概要

化学物質を直接的に規制する法規制に関して、代表例として日本国内、欧米の状況を示すと以下の通りである。

1)日本
 化学物質の管理に関する基本的な国内法は「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法
 律」(以下、化審法と略記)であり、1973年に制定され、更に2011年にリスク管理等を
 追加して大きく改正された。
2)米国
 有害物質規制法(TSCA;Toxic Substances Control Act )は1977年に施行されたが、
 リスク評価が不十分であるとの問題から修正され、2016年に新たに「21世紀化学物質安全
 法」として制定され施行された。
3)欧州(EU)
 EACH規制;Registration , Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals
 は2006年に公布され2007年から施行された。世界の化学物質規制の雛形となったと言わ
 れている。
4)その他の国々
 日米欧の法律などを参考にし、各国の事情を考慮して多くの国々で法整備されている。

2-2. 法規制の適用範囲と規制対象者

これらの国内法(規制)が適用される範囲は、基本的には対象とする化学物質の販売、製造、輸出入、使用、保管(貯蔵)、廃棄など全ての場合である。従って、規制対象の化学物質を国内で扱う全ての業務が該当することになる。
また、規制対象者は当然経済活動における責任者である事業者(事業主)になるが、規制法規によっては、直接取り扱う者(例:労働者)も規制順守の対象になる場合がある。更に管理責任者を定めてその責任の主要部分を負うことを定めている場合も多い。

2-3. 日本国内の法規制状況(各省庁の関係)

日本国内では化学物質に関する法規制は化審法の他にも多くあるため、それらの法律と主管省庁との関係を以下に示した。化学物質の特性、使用対象(状態、場所、取扱者)、規制内容などにより法規制も異なるので、当然主管省庁も異なってくる。

尚、表中の化審法以外の主な法律の略称は以下の通り。(以下、本資料ではこれらの略称を使用する。)

1)化管法:特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律
 (PRTR法とも言う)
2)毒劇法:毒物及び劇物取締法
3)労安法:労働安全衛生法
4)フロン排出規制法:フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律

 経済産業省厚生労働省環境省その他
旧厚生省旧労働省
化審法
化管法
毒劇法
家庭用品規制法
労安法
室内空気濃度指針*◎:国交省
○:文科省
消防法◎:消防庁
高圧ガス保安法
フロン排出規制法

(注)凡例は以下の通り。
◎:主管、○:関連あり(一部関連あり)
*室内空気濃度指針は、基本的には厚生労働省の主管で定められているが、建築物関係の
 場合は国交省が学校関係は文科省が関わる場合がある。

3. 化学物質の適正管理

3-1. 化学物質の情報の収集方法

化学物質を適正に管理する(取り扱う)ためには、その化学物質の危険有害性などの情報を正確に入手する必要がある。それらの概要は以下の通りである。尚、製造業者がわかれば、その企業の技術情報(SDSなど)から入手することも可能な場合がある。

情報の収集方法概要(対応方法)有償/無償
1)一般資料調査化学便覧などの資料調査無償
2)WEB調査NITEなどの検索無償
3)化学情報協会*CAS番号から調査有償
4)その他調査会社使用有償

(注)*CAS番号の国内窓口であり、アカウント開設が必要となり情報提供は有償である。

3-2. SDSの概要

化学物質の情報として、その製造業者では一般的に技術情報の公開方法としてSDS(Safety Data Sheet)を発行している場合が多い。まず、それらを入手して活用されることが近道である。 SDSに関する規格として、JIS Z 7253(GHSに基づく化学品の危険有害性情報の伝達方法―ラベル、作業場内の表示及び安全データシート)があり、多くの場合この規格に基づき作成されている。このGHS方式では絵文字を使用しているので危険有害性が非常に分かり易い特徴がある。但し、どこまで情報公開するか(SDSに記載するか)はその企業が決定することであり、必ずしも十分でない場合がある。 また、化学物質の危険有害性の情報公開(表示、提供)を義務化している法律は、国内では化管法、労安法、毒劇法の3法である。これらの3法では、表示すべき要求事項が多少異なるが、上記のJISに基づいたものでは3法の要求事項を満足する内容になっている。尚、労安法では、これらのSDSによって入手した情報などに基づきRA(リスクアセスメント)を実施することを義務付けている。

3-3. SDS作成と活用上の留意点

化学物質の危険有害性の情報に関するSDSの作成、入手、活用に関する留意事項は以下の通りである。

1)SDS規格として上記のJIS(又はISO規格)を活用する。
2)作成・提供義務が定められている法規制は、化管法、労安法、毒劇法の3法であり、要求
 事項が一部異なることに留意する。但しJISに基づいて作成すれば3法の要求事項を満足す
 る。
3)SDS作成時の留意事項として、a)JIS方式(GHS方式)を採用すること、b)現時点で入手
 している情報は全て公開すること、c)最新管理を行うことなどが必要である。
4)SDSは非管理文書であるから、a)公開情報/非公開情報の区分(SDS/技術情報の区
 分)b)公開/非公開のリスクの検討、などが必要である。
5)免責事項の検討
6)作成時、活用時ともに最新版管理が必要である。

 

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