コラム

建設資材の防耐火規制と難燃化対策

2020.06.02

建設資材の防耐火規制と難燃化対策

1. 建築物の難燃規制の基本(考え方)

建築物の難燃規制は基本的には、1)その立地条件、2)大きさ(規模)、3)用途などにより決定するものである。1)としては、都市部/山間部、繁華街/過疎地、周辺条件(例:敷地面積・道路)、隣地条件などがあり、2)としては、建物の面積、地上・地下の階数、高さ、地盤面などがあり、3)としては、戸建/集合住宅、不特定多数の使用の有無(例:劇場・病院・学校・百貨店・倉庫・車庫)などがある。
従って、同じような建築物でも上記の条件によって異なる規制を受けることになる。然も、このような規制の基本的な考え方は、「材料指定」ではなく(どのような種類の材料のみが使用可能であると言うことではなく)、「性能指定」である(ある一定の性能を保持すればどのような材料でも使用可能である)と言う規制である。この一定の性能は建築基準法で詳細に定められている。即ち、この考え方は、高分子系建材を使用したものにも適用されることになり、一定の性能を有していることが採用の条件と言うことである。

【参考】
一例で説明すれば次の通りである。建築基準法は1998年までに大きく改正され、基本的に「材料指定」から「性能指定」に改正された。例えば、それ以前の屋根材は金属、石材、コンクリートなどの「無機材料」で葺かなければならなかったが(材料指定であったが)、現在は「不燃材料」で葺けばよいことになった。即ち、「不燃材料」として所定の評価試験に合格し認定されれば無機・有機の違いは問題なくなった訳である。

本記事ではこれらを考慮して、難燃規制として防耐火関係の規制の概要を以下に紹介する。特に、高分子系材料に関係が深いと思われる規制を中心に紹介する。また、これらの事例紹介では、分かり易く紹介するため一部に正確性を欠く恐れがあるので、実際に対応する際には関係法規制をご確認頂きたい。

2. 防耐火関係の規制の概要(事例紹介)

2-1. 防火地域・準防火地域の規制(法61条,62条)

防火地域及び準防火地域において、火災発生により、倒壊・隣地からの延焼を防ぐための建築物の防火性能に関する規制である。防火地域及び準防火地域の建築物の規制状況(概要)を表1に示した。

表1. 防火・準防火地域の建築物の規制状況

 建物の階数延べ床面積(S)防耐火制限
防火地域2階以上S≦100m2耐火又は準耐火建物
S>100m2耐火建築物
≧3階
(地階含む)
耐火建築物
準耐火地域≦2階
(地階除く)
S≦500m2制限なし(但し、木造などで外壁・軒裏のうち延焼の恐れのある部分は防火構造)
500m2<S≦1,500m2耐火又は準耐火建築物
S>1,500m2耐火建築物
=3階
(地階除く)
S≦500m2耐火・準耐火建築物、又は令136条の2の木造3階建ての基準に適合
500m2<S≦1,500m2耐火又は準耐火建築物
S>1,500m2耐火建築物
≧4階
(地階除く)
耐火建築物

(注)但し、上表の適用が除外される場合は次の通り。

防火地域50m2以内の平屋の付属建築物で、外壁・軒裏が防火構造の場合
防火地域/準防火地域卸売市場の上屋・機械製作工場で主要構造部が不燃材料である場合

2-2. 法22条区域(法22条,24条)

法22条区域とは、延焼防止を目的として全ての建築物に屋根の不燃化を義務付けた地域である。然も防火・準防火地域の指定がない地域に掛けられた規制である。木造の特殊建築物は、その規模や用途に応じて延焼の恐れのある部分の外壁・軒裏を防火構造とすることが定められている。規制状況(概要)は表2の通りである。

表2. 法22条区域の規制の概要

部位対象規制内容
全ての建築物屋根不燃材料で葺く、又は大臣認定のもの。但し10m2以内は除く。
木造建築物など外壁延焼の恐れのある部分を準防火性能(土塗り壁)同等とする。
木造建築物等の特殊建築外壁・軒裏延焼の恐れのある部分を防火構造とする。

2-3. 内装制限(法35条の2,令128条の3,4など)

建築物の延焼の抑制を目的として天井、内壁に使用する材料についての規制を「内装規制」と言う。このうち、特殊建築物(劇場、病院、百貨店自動車車庫など)及び大規模建築物(学校、スポーツ施設など)を除く全ての建築物、住宅などに適用される内装制限(居室)につき概要を表3に示した。殆どの部分に準不燃材料以上であることが求められている。

表3. 一般住宅などに適用される内装制限の概要

用途・部屋適用居室適用部分居室の内装制限
全ての建築物排煙上の無窓室床面積>50m2準不燃材料以上
採光上の無窓室全て準不燃材料以上
住宅・兼用住宅厨房・調理室階数≧2準不燃材料以上
住宅以外の建物浴室・ボイラー室など階数≧2準不燃材料以上
地下街不燃制限規制階数≧2不燃材料

(注)上表は、特殊建築物などを除く一般住宅などへの適用状況の概要を示す。

但し、内装制限には以下の2点の緩和事項がある。
1)平12建告1439号(木材使用緩和)
難燃材料による仕上げに準ずる仕上げを定める告示であり、天井を準不燃材で仕上げれば木材を壁に使用してもよいと言うもの。
2)平21国交告225号,平12建告1439号による緩和(火気使用室の制限緩和)
戸建住宅の火気使用室では火気使用室周辺を特定不燃材料で強化すれば難燃材料、木材で仕上げしてもよいと言うもの。

2-4. その他の規制

上記以外の規制として、耐火建築物(法2条),準耐火建築物法(2条),木造3階建ての準耐火建築物,耐火木造,延焼の恐れのある部分の規制,防火構造,準防火構造,防火区画などがあるが、紙面の都合により割愛した。

3. 高分子系材料による防耐火建材へのアプローチ

3-1. 高分子系材料によるアプローチ範囲(適用範囲の予測)

本記事では、建築材料として使用される高分子系材料のうち、防耐火規制の掛からない範囲で使用される外装材(雨樋、窓用サッシ、建築用塗など)、断熱材、浴槽、エックステリア部材などを除き、防耐火規制の掛かる範囲の防耐火建材につき考察した。
高分子系材料による防耐火建材のアプローチ状況(一例)は表4の通りである。高分子系材料の単独使用で可能の場合、単独使用では相当困難であり、他の材料(例:無機系材料)との複合化によらなければならない場合などがある。

表4. 高分子系材料での可能性検討(一例)

 具体的対象グレード(一例)高分子系材料での可否*
防火材料不燃材,準不燃材料,難燃材料高性能化等により単独使用での可能性は高い
防火構造防火構造(防火2級),土塗壁同等(防火3級)無機材料との複合化等により可能性が高い
準耐火構造屋根耐火(30分),外壁(非耐力)(30分),外壁(非耐力)(1時間)無機系材料との複合化等により可能性あり
耐火構造屋根耐火(30分),外壁(非耐力)(30分),外壁(非耐力)(1時間)無機系材料との複合化等により可能性あり
防火設備従来の防火戸など高性能化等により可能性が高い

(注)*現時点での可能性を検討した結果であり、今後の検討結果によるところが大きい。

3-2. 防火材料としての評価試験方法(法23条)

防火材料とは、防火性能を有している材料であり、不燃材料、準不燃材料、難燃材料に区分される。それぞれの材料ごとに使用可能範囲が定められている(内装制限参照)。これらの材料の性能試験内容及び認定取得するための評価試験内容は表5の通りである。
不燃材料、準不燃材料及び難燃材料に合格するためには、それぞれ3種の試験項目のうち2種類を選択することができるため、それぞれ2通りの方法があり、申請者(申請組織)は得意の項目を選択することができる。

表5. 防火材料の性能評価試験内容

 不燃材料準不燃材料難燃材料
試験内容①不燃材料試験
(20分)
①発熱性試験
(10分)
①発熱性試験
(5分)
②発熱性試験
(20分)
②模型箱試験
(10分)
②模型箱試験
(5分)
③ガス有害性試験
(6分)
③ガス有害性試験
(6分)
③ガス有害性試験
(6分)
認定合格の条件*①+③に合格
又は②+③に合格
①+③に合格
又は②+③に合格
①+③に合格
又は②+③に合格

(注)*2通りのうちの何れかを選択できる。

3-3. その他の評価試験方法

防火構造,準耐火構造,耐火構造,防火設備などの評価試験方法は省略した。ご関心をお持ちの方には紹介可能であるのでご照会頂きたい。
尚、これらの材料として認定されるには、公的な試験機関の評価試験に合格し、国交大臣の認定を受けることが必要になる。

4. 高分子系材料の難燃化対策

4-1. 高分子系材料の難燃化対策の概要

建築物に使用される高分子系材料として、ある一定の水準以上の機能(難燃性,耐熱性)を持っていることが必要である。その上で建築材料(製品)としての機能を持たせることが可能になる。これらの一定水準以上の機能(難燃性,耐熱性)を持たせるために評価すべき事項は次の通りである。
 1)着火性・・・着火温度,着火時間,酸素濃度(LOI)など
 2)表面の燃焼性・・・火炎伝播性,溶融の有無,炭化層の形成状況など
 3)燃焼継続性・・・燃焼時間,残炎・残儘時間」など
 4)発熱性・・・発熱量,発熱速度(HRR)など
 5)発煙性・・・発煙量,発煙速度など
 6)ガス有害性・・・ガス組成,特定毒性物資の生成の有無など
 7)その他・・・機器による評価(TGA,DTAなど),動物実験など
これらの項目に対する評価試験方法(JIS,ISO法など)が定められており、それらを参照されたい。

4-2. 難燃性評価試験方法(一例)

最も代表的な燃焼性評価試験方法としてJIS K 7241(ISO 9772)(発泡プラスチックの小火炎による小試験片の水平燃焼特性の求め方)があるので、その装置の概要を図1に示した。この試験方法は各種の発泡プラスチックに適用される。

小火炎による燃焼特性試験法の概要

図1. 小火炎による燃焼特性試験法の概要(JIS K 7241)

この試験方法では、燃焼距離,燃焼時間,燃焼速度,残炎距離・時間,残儘時間などを測定することができ、材料の相対的な燃焼特性を測定することができる。
尚、その他の評価試験方法の紹介は紙面の都合で割愛させて頂いた。

4-3. 難燃化の方法

高分子系材料に難燃性を付与する方法の概要を図2に示した。

難燃化の方法

図2. 難燃化の方法(概要)

上記の対策に関して、ポリマー自身の難燃化,耐熱化,難燃剤の併用は高分子系材料 の改質によるものであり、可燃物の希釈は充填剤の添加によるものであり、空気・熱の 遮断、面材・被覆材複合化には無機系材料との組合せが考えられる。一般的には、これら の幾つかを組み合わせる方法で有効である。

4-4. 難燃剤の選定方法

難燃剤としては、ハロゲン系,リン酸エステル系,無機系(例:アンチモン,水酸化アルミ)などがあり、高分子系材料の種類に最適と思われるものが選定されている。それらの難燃剤を使用時に留意すべき事項は以下の通りである。
1)難燃効果が高い
2)毒性・臭気がない(法規制に適合する)
3)成形加工性がよい(成形時の耐熱性が十分ある)
4)難燃効果の持続性がある(耐劣化性が十分ある)
5)高分子系材との相溶性よく、均質に分散する
6)他の性能(例:機械的強度)への影響少ない
7)安価である
8)清潔性・衛生性がある(粉塵などが少ない)
特に、最近は関連の法規制の改正などがある場合が少なくないため、最新の規制情報を確実に確認することが重要である。

4-5. 防耐火建材へのアプローチ事例

これまで高分子系材料を使用して防耐火建材を開発しようとする動きに関して示してきたが、大別して、1)高分子系材料そのものの難燃性,耐熱性を高めること(又は、難燃性・耐熱性の高いものを選定すること)、2)無機材料(例:鋼板,アルミ箔,石膏ボード)との複合化を検討すること、3)多量の無機充填剤を使用すること、などである。  それらの一例を示すと次の通りである。1)では、フェノール変性,イソシアヌレート変性,ポリイミド変性,シリコーン変性などがあり、2)では鋼板とのサンドイッチパネル化,石膏ボードによる複合パネル化などがあり、3)では多量の炭酸カルシウム,水酸化アルミ等を充填する方法などがあり、幅広く検討されている。

5. 総括

本記事では、高分子系材料を使用した防耐火建材の開発に関して概要を示した。防耐火建材の規制の概要(一例)を示し、併せて高分子材料での対応の仕方などの一例を示した。この分野はそれぞれ非常に幅広い分野であり、本記事ではその一例(入口)を示したに過ぎない。従って、それぞれ状況に応じ具体的な開発アイテムなどをご提示頂ければ、柔軟に対応して参りたいと思う次第である。

 

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