コラム

プラスチックの耐熱性とその対策

2022.01.05

プラスチックの耐熱性とその対策

本技術解説は、プラスチック(高分子材料)の耐熱性に関して概要をまとめたものである。プラスチックの耐熱性とは何か(基本的な概念)、耐熱性を向上させるための方策、今後の課題など、実際にプラスチックの耐熱性を改善していく上で必要な事項についてまとめたものである。

1. 耐熱性発現の要因

1-1. 耐熱性とは

一般的にプラスチックの耐熱性が高いと言われる場合は、
 ① 軟化温度、溶融温度が高い
 ② 高温まで機械的性質、電気的性質などの諸性質の低下がない(低下が少ない)
 ③ 熱分解温度が高い(熱分解し難い)
 ④ 高温で長期間使用しても諸性質の低下がない(低下が少ない)
などであると考えられている。

1-2. 耐熱性に影響を及ぼす要因

プラスチックの耐熱性に及ぼす要因(影響)としては、可逆的要因(物理的要因)及び不可逆的要因(化学的要因)の2つがある。
可逆的要因としては、温度のみに支配される要因であり、高温で低下した性質が低温に戻せば回復し、1-1項の①と②が該当する。一方、不可逆的要因としては、加えられた熱によりプラスチックの化学結合が分解・熱酸化分解(解離・熱反応)によるものであり、もはや材料を元の状態に戻すことはできず、1-1項の③と④が該当する。

(1)可逆的要因(物理的要因)
プラスチック(高分子材料)を外部より加熱すると、軟化・溶融により機械的性質などが著しく低下する。耐熱性を高めるためにはガラス点移転(Tg)や融点(Tm)を高める必要がある。融点(Tm)は、融解エンタルピー(⊿H)と融解エントロピー(⊿S)の比で示すことができる(次式参照)。

 Tm=⊿H/⊿S

従って、Tmを高めるためには、⊿Hを大きくすること、⊿Sを小さくすることが必要である。
⊿Hを支配する因子は分子間凝集力に関係し、分子間凝集力の大きいものは⊿Hを大きくする。即ち、双極子相互作用、水素結合などが効果的である。双極子相互作用としては、主鎖に極性の高いアミド基、イミド基、カルボニル基などの導入が効果的であり、水素結合では分子中のエーテル基、アミド基、ウレタン基などが効果的である。
また、⊿Sは融解時のエントロピー変化であり、融解前後のエントロピーの変化の小さいものが効果的である。具体的には、分子鎖に芳香族環、複素環構造などの剛直な構造を導入し分子鎖の回転などの形態の自由度を拘束すれば⊿Sを小さくして融点の上昇を図ることができる。
尚、ここではTmについて述べたが、実際のプラスチック(高分子材料)の性質はTgに大きく支配される。しかも、Tgを支配する因子はTmと同様であることが分かっているので、先に述べたTmに関する考察をそのままTgにも適用することができる(経験則)。TmとTgの関係は以下の通りである。

 Tg ≒(2/3)Tm

これらを総合すると、可逆的要因としての耐熱性である転移温度の向上に関しては、分子間力の増大、分子対称性の導入、剛直構造の導入などが効果的であることが分かる。

(2)不可逆的要因(化学的要因)
 プラスチック(高分子材料)を高温で長時間保持すると、化学結合が熱分解・熱酸化分解を受けて重量減少、炭化などを起こし、諸物性の低下をもたらす。即ち、この熱劣化により化学結合の分解を受けた材料は二度と元の状態には戻らない(即ち、不可逆要因と言うことになる)。
高分子材料の熱分解反応も化学反応であり、速度論的には次式のアレニウス式で表わすことができる。ここに、K:速度定数、E:熱分解の活性化エネルギー、A,R:定数である。

アレニウス式の画像

この熱分解反応の活性化エネルギー(E)は、高分子材料を構成する結合の解離エネルギー、即ち結合エネルギーに比例する。従って、結合エネルギーが大きい結合種がより多く高分子鎖に含まれれば分解の活性化エネルギーが大きく、換言すれば結合エネルギーが大きくなるので分解し難いことになる。
代表的な結合エネルギーの値を表1に示す。

表1. 結合エネルギーの値(単位:kcal/mol)

結合 結合エネルギー
C-C 83.1
C=C 147.0
C≡C 194.0
C-H 98.8
C-N 69.7
C=N 147.0
C≡N 213.0
C-O 84.0
C-Si 69.3
Si-O 88.2
C-Cℓ 78.5
C-F 105.4
O-H 110.6

このように、熱分解に対する安定性を向上させる(耐熱性を高める)ためには、原子間の結合エネルギーの大きい基を導入することが基本であり、単結合のみから構成される脂肪族系高分子よりも、芳香族、複素環系高分子の方が耐熱性に優れることが分かる。

2. 材料比較のための耐熱性評価試験方法

材料比較のための耐熱評価試験方法の代表的な例を表2に示した。小試験片を加熱した場合の撓み量などを測定して高分子材料の相対的な耐熱性を評価する試験方法である(紙面の都合により詳細説明は割愛する)。

表2. 材料比較のための耐熱性評価試験方法(JIS)

  JIS番号 試験内容(概要)
荷重たわみ温度 JIS K 7191 荷重下のたわみから耐熱性を評価する
ビカット軟化点 JIS K 7206 針状圧子の侵入量から耐熱性を評価する
ヒートサグ温度 JIS K 7195 試験片の一端を固定して自重たわみ量により耐熱性を評価する

 

3. 高耐熱性高分子材料の例

代表的な高耐熱性高分子材料の例を表3に示した。
また、耐熱性のみでなく、機械的特性などを含む多くの特性が優れている高分子材料はエンジニアリングプラスチック(エンプラ)と呼ばれ、更に高位の高分子材料をスーパーエンプラと呼ばれる材料が別のカテゴリーで分類されている。エンプラやスーパーエンプラについては、別途「エンプラおよびスーパーエンプラの種類と特徴」で紹介しているので、それらを参照されたい。

表3. 代表的な高耐熱性高分子材料の例

  代表樹脂名 応用展開状況
フッ素樹脂 PTFE PFA,FEP,PVDFなど
シリコーン樹脂 シリコーンゴム NBRからの代替,注型など
イソシアヌレート PURフォームの変性 耐熱耐炎性の改善
芳香族・複素環系樹脂 PEEK,PES,PEIなど 高温寸法安定性の改善など
熱硬化性樹脂 ポリアミノビスマレイドなど 各種ビスマレイド誘導体

 

4. 耐熱性向上対策

高分子材料を改良して耐熱性を向上させる方法(対策)は非常に多くあるが、特に効果的な方法につき表4にまとめて示した。

表4. 耐熱性向上対策の例

  方法(対策) 応用例
添加剤の添加 酸化防止剤,紫外線防止剤,安定剤などの添加 成形性の改善,熱変色の改善

充填剤の添加
(コンポジット)

充填剤の添加(粉末充填剤の添加) 機械的特性(耐荷重性)の改善
補強材使用 ガラス繊維,炭素繊維などの添加 補強,変形温度の向上,寸法安定性の改善
樹脂の改質 ポリマーアロイ,ポリマーブレンドなど 成形性,流動性,耐薬品性などの改善
ナノコンポジット 超微粒子の充填剤の添加・複合化 機械的特性の改善
一体成形 金属部品などとの一体成形 寸法安定性の改善

 

5. 耐熱性向上対策における課題と今後の動向

(1)長期耐久性(長期耐熱性)の評価方法の確立の必要性
実際の製品(成形品など)の耐熱性に関しては、長期的耐久性を求められる場合が少なくない。しかしながら、長期耐久性(耐熱性)を正確に予測(評価)する方法はまだ確立されていない。例えば、高分子材料Aの部品と高分子材料Bの部品の組合せ部品Xを使用する場合、「部品Xは何年もつものか?」と言う問題に対して、実際に使用して見なければわからないと言う回答しかない示されない場合が多いことがある。これは、耐久性や耐熱性の概念が分野、用途により異なるから様々な測定方法や評価方法があるからである。
そこで、これらの相違点を踏まえて、長期的評価方法をまとめるという動きがプラスチック分野の関係者において見られている。活発な議論が展開されることを期待したい。

(2)高い耐熱性ゆえの成形性の問題
耐熱性高分子材料の各種成形方法において、当該高分子材料の耐熱性が高いために融点や溶融粘度が高く、成形性が悪いと言う特徴(欠点)を持つことである。成形性を改善するために多くの添加剤の改善(流動性改善・結晶化促進・離型改善・安定性向上など)が進められてきたが、更に耐熱性の向上と併行して、添加剤などの助剤の改善が図られることが期待されている。

 

株式会社英知継承では、本テーマに関して当該専門家による技術コンサルティング(技術支援・技術協力)が可能です。下記よりお気軽にお問い合わせください。

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