コラム

吸水性樹脂(SAP)の構造・原理および用途

2023.11.29

吸水性樹脂(SAP)の構造・原理および用途

1. 吸水性樹脂(SAP)の概要

吸水性樹脂(Super Absorbent Polymer; SAPと略す)は、1960年代に米国にて開発され、自重の数百倍もの水を吸収し、圧力を加えても吸収した水を保持できるゲルを形成する特性が注目されたものの商業化までには至らなかった。その後日本で独自に開発が進み、1978年に生理用ナプキンに利用されると一気に企業化され、さらに紙おむつへと展開、大きな市場が形成された。
吸水性樹脂(SAP)は、構造的には水溶性ポリマーを架橋し不溶化させ乾燥させたもので、ゲル網目を構成する分子と水との間の相互作用により、水を保持するものである。
本稿ではSAPの水の保持メカニズム、特徴などを説明し、用途などを紹介し、基本的な吸水・膨潤を理解することにより、更に新しい用途開発などに役立てて欲しい。

2. 代表的な吸水性樹脂の構造

高い吸水性のSAPは、分子内にイオン基を持つポリアクリル酸の架橋体が一般的である。アクリル酸塩モノマーと架橋剤からなる水溶液をラジカル重合し、その後乾燥する方法で製造する。その形状は製造方法により無定形破砕状(水溶液重合で製造)、真球状(懸濁重合)、鱗片状(薄膜乾燥)などが知られ、現在は無定形破砕品が主流である。セルロース・アクリロニトリルグラフト共重合体加水分解物、デンプンーアクリル酸グラフト共重合体なども市場にはある。SAPは全世界で製造されていて汎用化されており、最近ではポリグルタミン酸架橋体などの生分解性SAPの登場や、繊維状のSAPなども開発されている。

3. 吸水性樹脂の吸水の原理(メカニズム)

分子内に水中で解離するイオン官能基を有して高い吸水能を持つポリアクリル酸架橋体を例にして吸水量とそれに達するまでの吸水速度を主に説明する(溶媒を水として説明)。

3-1. 平衡吸水量(Qm;水で膨潤させた時の飽和した平衡状態の吸水量)

ポリマー網目が水中に広がろうとする力とそれを抑制する力が釣り合う所がQmとなる。 SAPの吸水量QmはFloryのイオン網目の膨潤理論により定性的に理解できる。

吸水性樹脂の平衡吸水量の算出式

Qmは式1で示され、Ⓐは架橋よるゴム弾性力、Ⓑはゲル内の可動性対イオンによるイオン浸透圧力、Ⓒは水とゲル分子の親和力の3つの要素で決まる。イオン基のない非荷電粒子ではⒶとⒸとのバランスで平衡吸水量が決まる。荷電粒子ではⒷのイオン浸透圧が大きな寄与をなし、大きいQmを得る為、ポリマー鎖に固定された電荷密度を大きくする設計がされている。水に塩を加える、あるいは水に可溶な有機溶媒を添加、pHが変わるとイオン濃度差が変化し膨潤量は変化する。水で500倍吸水するSAPが尿(Caイオンの影響)ではゲル内外のイオン濃度差が小さくなり、その結果10分1しか吸収しない現象を説明できる。含水した粒子のゲル強度を高くする為、架橋剤量を多くすると吸水量は低下する。
粒子の周りの環境の変化でイオン解離度が変化、あるいはポリマーの親和度が変化する工夫をするとQmが変化し膨潤(吸水)・収縮が可逆的に行う事も可能になる。アミド基のように温度で親水性・疎水性の変化などが例として挙げられる。刺激応答性ゲルなどの応用、ゲルの相転移などの理論も話題になった。

3-2. 吸水速度(膨潤速度)

Qmに達するまでの吸水速度は、おむつのような実際の応用場面では重要な因子である。乾燥したSAPを水に入れると膨潤を始め、膨潤プロセスは①水分子のポリマー網目内への拡散、②溶媒和によるポリマー鎖のガラス状態からゴム状態への緩和、③ポリマー鎖の水中への拡散である。Qmまでの吸水時間Tは T=d2/D、D=K/frで表せる。ここで粒子吸水量(粒子半径)、D;水中のポリマー網目の拡散係数、K;網目の弾性率、fr;ポリマー網目と水の粘性係数である。粒子径を小さくする事で吸水時間は短くなる事になる。
ポリマー網目の緩和速度が水の粒子への浸透速度に比べて小さい場合、ポリマーの緩和速度が律速になり、膨潤した表面と内部のガラス状コアに境界面ができ2層に分かれる。おむつに用いられているSAPはこのケースである。
図1は膨潤(吸水)時の粒子の状態を示している。粒子内部の緩和(ポリマー網目の拡散)を早くする工夫として、例えば架橋構造や架橋剤の選択、粒子の内部多孔質化などが提案され、吸水速度向上が図られている。

膨潤時のSAP

図1. 膨潤(給水)時のSAPの状態

4. 吸水性樹脂の用途

SAPの用途として一番は紙おむつなどの衛生用品である。それ以外の例をSAPの機能の特徴(吸収・保持・徐放など)とそれを利用した用途を表1にまとめた。含水ゲルのゲル強度が重要な用途、含水ゲルに含まれる成分の徐放や放出などがある。実際は粒子単独でなく複合化した形(シートなど)の製品で用いられる。

表1. 吸水性樹脂の衛生用品以外の用途(産業分野)

応用する機能応用する用途先補足コメント
含水状態での
保水機能+徐放
ゲル芳香剤水・溶媒系に香料を配合した含水ゲル。匂いを徐放する製品。
パップ剤
熱さましシート
含水ゲルシートで除熱、薬の徐放する機能製品。貼付して使用。
流通時の保水シート含水シートで流通時の湿度制御、柿の渋抜きなどの利用に実績。
徐放性ゲル(医薬品)薬を含侵した水性ゲルを薬のキャリヤーとして利用する開発。
使い捨てカイロ(食塩水の徐放)食塩水の徐放で鉄の酸化制御により発熱温度や時間を設計。
吸収・保水機能砂漠緑化の保水材
育苗用保水材
水を散布し、その水を維持し、後に放出し植物生育に利用。
法面緑化材法面にSAP/種を吹き付け、降雨時水維持、徐放で発芽性Up。
鮮度保持シート
結露吸収シート
刺身や肉のドリップの吸収し菌の発生抑制。窓の結露水を吸収。
膨潤機能止水テープ
水膨潤性ゴム
水で膨潤し止水。膨潤時の強度が必要でウレタンなどの材を利用。
柔軟親水性粒子化粧品(スクラブ)粘着性のある含水した親水性粒子で汚れを付着。

 

5. 吸水性樹脂の動向

SAPは世界で300万t製造されている。新しい技術の提案は以前に比べると減少しているが継続して行われている。

5-1. 吸収性能の向上

吸収量を上げる方法として、ポリマー分子量の均一化技術や低分子量のポリマー量が少ない製造方法がある。
また、加圧下での吸収性の向上の方法として、架橋剤の選択や粒子表面近傍により架橋させ、水の流れなどを改善する不均一架橋技術の報告がある。

5-2. シートなどの複合化

SAP含有シートの設計(SAP吸収シート)や紙や親水性繊維などとの複合化したシート作成技術やフィルム状の吸水性材料などが多く提案されている。複合化しやすいSAPの提案などもある。

5-3. 環境への影響

昨今の資源循環を目標に、SAPの紙おむつから回収・分離し再利用、生分解性のSAP(グルタミン酸などアミノ酸ポリマー)、澱粉などのグラフト重合体の再検討などがある。SAP製造時に発生するCO2の削減できる製造技術の開発や、コストダウンも併せて製造プロセス改善の検討も継続してなされている。

 

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