コラム

マイクロ波電力伝送の現状と動向

2022.02.23

マイクロ波電力伝送の現状と動向

1. マイクロ波電力伝送技術の概要

ワイヤレス電力伝送技術は、送受信回路を物理的に接触させる必要がないため、自由度が高く魅力的な技術である。2006年にMITが1m程度の大きなギャップ間の電力伝送の可能性を磁気共鳴技術によって示したのが大きなインパクトで、その後EV(電気自動車)へのワイヤレス電力伝送の実用化に向けて精力的な研究開発が行われてきたのはご承知の通りである。多くの実証実験にもかかわらず、当初の期待通りには普及は進んでいないのも事実である。伝送距離が期待より短くかつ位置合わせや共振の制御が必要である、コスト高に比べてユーザのメリットが少ない、などいくつかの理由が指摘されている。 これに対して最近注目されているのがマイクロ波空間伝送型の電力伝送技術である。これは近接場ではなく、いわゆる電磁波を使って電力をワイヤレスで1~10m程度の距離に渡って伝送する技術で、歴史は磁気共鳴を使ったワイヤレス電力伝送技術より古い。日本では京都大学篠原教授の宇宙の太陽光発電所からマイクロ波で地球に電力伝送するといった壮大な研究でよく知られている。 本稿のマイクロ波電力伝送技術はもっと身近なもので、家庭内あるいは車内のスマートフォンなどのIT機器への充電に使おうというものである。介護施設の見守りセンサへの天井からの給電や工場・倉庫における各種センサへの給電なども考えられている。2020年5月に総務省情報通信審議会が、920MHz、2.4GHzおよび5.7GHzの技術的条件と導入シナリオを答申したのが大きなインパクトとなり、複数社が参入を前提に本格的な検討を開始した。早ければ2021年夏の制度化と期待されたが、調整に手間取り遅れているようである。

表1. 情報通信審議会(総務省)答申の技術的条件案

情報通信審議会答申の技術的条件案の画像

総務省が後押ししている背景には、IoT(センサネットワーク)の普及が思ったほど進んでいない状況もある。例えばIBMは2012年に「2015年までに1兆個のIoTセンサが設置される」との、いわゆるトリリオンセンサの需要予測を行ったが、2018年には「2025年までに250億個」と下方修正されている。普及が進まない原因の一つはバッテリーで、例えば「3年寿命のバッテリーを搭載した1兆個のセンサを取り換えるにはオーストラリアの人口に匹敵する2,300万人の交換要員が必要になる」とも言われている。マイクロ波電力伝送でバッテリー交換が不要になれば、一気にIoTセンサの普及が進むとの期待がある。

2. マイクロ波電力伝送技術の海外動向

米国では既にマイクロ波電力伝送が規制当局(FCC)によって許可されており、製品化が進められている。 Ossia社のシステムCotaは、WiFiなどと同じ2.4GHzの周波数帯を用い、受信機からのビーコン信号を基に1対1で受信機に向かって電力を送信する。しかも、壁面からの反射波も使用するマルチパス伝送を用いることで、特定空間のRF電力を大きくすることを避け、生物への電波暴露による悪影響がないようにしている。マルチパスはまた、見通し外への電力伝送も可能にしている。米国だけでなく、EU及び英国での使用許可も得ている。開発中の5.8GHzではさらに効率が高くなり、1mで2~3W、10mで10~50mWの電力を受信機に供給できる。同社は日本企業との連携も深めており、例えば豊田合成は同社との共同開発契約を2020年に締結し、自動車内や室内のIT機器への電力伝送に向けた製品開発を進めている。 Energous社のシステムWattUpは913MHz/2.4GHz帯/5.8GHz帯を用い、比較的近距離の機器へのマイクロ波電力伝送を実現している。送信機の出力は約10Wと大きいのも特徴である。Powercast社のPowerSpotは915MHzを用いたシステムで、3Wの電力を送信しており、例えばニンテンドーのジョイスティックに給電できるとうたっている。両社とも既にFCCの許可を取得し、製品を販売している。

3. マイクロ波電力伝送技術の国内動向

国内では内閣府プロジェクト(SIP)「IoE社会のエネルギーシステム:研究開発項目C『IoE応用・実用化研究開発』」の中で、920MHz帯/2.4GHz帯/5.7GHz帯の試作開発が進められてきた。ただし、制度化が遅れていることもあり、実用化には至っていない。 パナソニックなどの研究グループは高効率なアンテナを開発し、約5m離れた位置から920MHz帯1Wのマイクロ波を送信し、複数のセンサで一括受信するシステムの構築を目指している。分散アンテナにより協調ビームを制御して、電波を足し合わせることで効率的な電力伝送を行う検討も行っており、物流センターのセンサへの給電などへの応用を想定している。 オムロンや東芝などの研究グループは、920MHz帯および5.7GHzの電波を用い、高度ビームフォーミングによるマルチパス制御方式で、工場などで移動するセンサへの給電の実現を目指している。数mW級から数W級の給電を目指すという。工場だけでなく、将来的にはスマートフォンへの給電や橋梁などのインフラ設備のモニタへの応用も想定している。 地上からドローンへの給電を目指しているのは、東京電力や三菱電機などの研究グループである。現状のドローンは飛行時間が短く、活用の場を広げるためには必要な電力を飛行中に給電することが必要になる。例えば送電線のドローンによる巡視・点検などの応用を考えている。5.8GHz帯を用いた電力伝送の検討を行っている。飛行するドローンへの効率的な電力伝送を行うためビーム制御技術の開発が必要になる。

4. ミリ波を用いた電力伝送

5Gで使用するミリ波(28GHz帯)を用いた検討も進められている。
筑波大学は、2021年7月に28GHz帯を用いて、飛行高度800mmでホバリングするドローンに約30秒に渡ってほぼ途切れることなくミリ波電力伝送に成功したと発表している。長距離化や大電力化の研究を進めるという。
2021年11月には、ソフトバンクなどの研究グループによるミリ波帯電力伝送および通信との融合をめざした研究開発がNICTの「Beyond 5G研究開発推進事業」の新規委託研究に採用されたとの発表があった。現在検討中の上記マイクロ波帯を用いた電力伝送では、他の通信システムとの干渉を抑えるため、出力電力や設置場所が制限される可能性があり、周波数のひっ迫の少ないミリ波帯での電力伝送を開発するとの意図である。さらに、5Gのミリ波通信と連携・融合させることで、通信と同規模の広範囲なサービスエリアを展開することが可能になるとのことである。

5. 最後に

以上紹介したように、マイクロ波空間伝送型電力伝送技術はIoTのセンサの電池取り換え問題を解消する切り札として期待されている。米国を中心に製品開発及び社会実装が進んでいる中で、制度化の調整に時間がかかり、当初の意気込みからやや後退した感のある日本の現状はやや心配である。
本稿では方式や応用を中心に紹介したが、これを実現するには、高利得のアンテナ技術やその材料、あるいは、低損失のマイクロ波-電力変換デバイスの技術開発が必要なことは言うまでもない。低閾値の電子デバイスや回路、あるいは圧電素子による電圧増幅などの技術開発も進められていることを付け加えておきたい。

 

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