コラム

圧電材料の種類とその応用

2021.03.09

圧電材料の種類とその応用

1. 圧電材料の概要

圧電材料およびその応用は多様である。圧電材料はその名の通り、応力を電気に、また逆に電気を応力に変換する材料である。結晶,セラミックス,薄膜(無機/有機)と材料も多様である。クロック,RFフィルタ,各種超音波応用製品,マイクロフォン,スピーカあるいはハプティックスまでデバイス形態も多様である。家電,スマートフォン,産業機器,自動車,IoTや医療機器まで応用範囲も多岐に渡る。下表は材料と応用をまとめた一覧表である。応用については代表的なものを抽出した。

表1. 圧電材料の種類とその応用一覧表

材料 応用
圧電単結晶 水晶 ・振動子/発振子(クロック)
・表面弾性波SAW
(RFフィルタ/共振器/センサ)
・超音波応用
強誘電体
・LN(LiNbO3)/LT(LiTaO3
・PZNT/PMZT
圧電セラミックス ・PZT:Pb(Zr,Ti)O3
・PbTiO3
・PbNb2O6
・BaTiO3
・Bi4Ti3O12
・(Bi,Na)TiO3
・KNN:(K,Na)NbO3
◎超音波応用製品
・空中センサ(車載障害物検出)
・水中センサ
(魚群探知機/水中超音波通信)
・流量計/液面レベル計
・加速度センサ(非破壊検査)/AEセンサ
・超音波診断装置/超音波温熱治療器
・超音波洗浄機/霧化器/ワイヤボンダー
・超音波モータ/カッター/メス
・ソノケミストリー
◎その他
・圧電トランス/圧電点火栓
・ハプティスク
圧電薄膜 無機材料
・PZT
・ZnO
・AIN/ScAIN
・KNN
・バルク弾性波BAW
(RFフィルタ/共振器/センサ)
・インクジェットヘッド
・超音波顕微鏡
・MEMSマイクロフォン
・マイクロスピーカ
・圧力センサ,生体センサ(心拍)
・ハプティクス
・環境発電(振動発電)
有機材料
・PVDF(ポリフッ化ビニリデン)
・PLA(ポリ乳酸)


圧電点火器や超音波洗浄機のような古い技術もあれば、飛び交う電波から必要な周波数の電波を抽出するRFフィルタのような5G時代のカギを握る技術もあり、いくつかの新技術がその覇を競っている。また、ハプティクス(触覚提示技術)のようにタッチレスでありながら、あたかも触っている感覚をもたらすポストコロナ時代に相応しい、そしてまだそのコンセプトそのものも曖昧な将来の応用もある。
以下の各論では、多様な応用のうち、まさに研究開発競争が行われている、RFフィルタ,医療用超音波診断装置,生体センサ,およびハプティクスの4項目を取り上げ、材料とデバイス構造の取組み状況を説明する。やや脱線するかもしれないが、関連技術あるいは関連応用の動向についても簡単に触れたい。全体を通して言える傾向は、圧電薄膜の圧電結晶や圧電セラミックスへの挑戦である。

2. 主な応用と圧電材料

2-1. RFフィルタ(SAW/BAW)

携帯電話に割り振られている電波の周波数帯域は国や地域によって必ずしも同一でない。そのため、スマートフォン以前の携帯電話機は国あるいは通信キャリアに応じて異なる型式のものを作っていた。日本の携帯電話を海外に持ち出しても使えないことのほうが普通であった。iPhoneに代表されるスマートフォンでは、世界中で一つの型式でよい。契約の問題はあるにしろ、基本的にどこの国でも使える。なぜかというと、iPhoneには世界中の任意の電波帯域を抽出できる50個以上のRFフィルタが内蔵されているからである。圧電材料を用いたSAW(Surface Acoustic Wave:表面弾性波)あるいはBAW(Bulk Acoustic Wave:バルク弾性波)技術が、それに必要な小型、低損失そして切れの良いRFフィルタの実現を可能にした。
1.5GHz~2GHz程度を境にSAWフィルタは低周波、BAWフィルタは高周波帯域で主として使われてきた。5Gでは3.5GHz~5.9GHzの帯域が使われる。そのため、SAWおよびBAWフィルタとも、適用周波数を上げる研究開発が精力的に行われてきた。その結果として両者の境界の周波数は上がってきている。
SAWの高性能化のキー技術は薄層化である。表面弾性波と言いながら、基板に漏れる弾性波がSAWデバイスの特性を損なっていた。そのため、音速の速い層(例えばAlN)の上に圧電結晶(例えばLT)を貼り合わせ、その後に圧電結晶を薄層にすることで弾性波を表面に閉じ込めるコンセプトである。先鞭をつけたのは村田製作所で、SAWデバイスの常識を破るという意味でI.H.P.SAW(Incredible High Performance SAW)と命名して2017年に発表した。3.5GHzへの適用の可能性も見える。
BAWの高性能化のキー技術は圧電薄膜材料の改善である。従来AlN(窒化アルミ)が使われてきた。これにSc(スカンジウム)を添加したScAlNにすることで圧電特性が改善されることを産総研とデンソーが見出した。例えばScを10%添加すると圧電係数や約10%増すという。この材料をBAWフィルタに適用すると、高周波で広帯域なフィルタが可能になる。6GHz以下の5G帯域をカバーすることを狙った開発がQorvoなどのBAWメーカーで進められている。なお、AlNやScAlN薄膜は一般的にはスパッタリング法で堆積するが、高品質化のためにエピタキシャル結晶成長法の検討も行われている。

2-2. 医療用超音波診断装置(セラミックス/PMUT)

医療用超音波診断装置は1951年に日本で実用化され、既に70年が経過しようとしている。超音波魚群探知機の原理を人体に応用したものである。超音波の送受信材料として圧電セラミックス(PZT)が長く使われてきた。
上記のRFフィルタでは弾性波の高いQ値の共振器を利用するが、超音波診断用では、高いQ値は残響の原因となり、空間分解能を悪くする。残響の少ない単パルスに近い超音波を発生させるためには周波数帯域の広い(Q値の小さな)共振特性を持つ材料が好ましい。そのため、多孔質にするような材料的な改善が積み重ねられてきた。
最近ではポータブルな超音波診断装置の開発が進められている。超音波プローブは電気カミソリぐらいの大きさにして、画像解析はスマートフォン程度の大きさ、あるいはスマートフォンそのもので行い、データはセンタ送信するとの使い方である。遠隔医療や医療×MaaS(Mobility as a Service)で往診の医療補助者、患者やその家族が自宅あるいは自宅まで来た診療車両の中で超音波診断することを想定している。高齢社会あるいはウィズコロナに相応しい診断装置である。このために、プローブの小型の研究開発が進んでいる。それを実現するデバイスとして圧電薄膜とMEMS加工技術を用いたPMUT(Piezoelectric Micromachined Ultrasonic Transducer)が注目されている。Si基板上に堆積した圧電薄膜にキャビティ(空孔)を形成してダイヤフラムとし、その屈曲振動を利用するものである。圧電薄膜としてはPZTあるいはAlN、ScAlNが使われる。共振帯域を広くし、かつ、実効的な圧電係数を大きくするため、楕円型やドーナツ型の平面形状や凸状に湾曲させたダイヤフラムの厚さ方向の形状などの工夫がされている。PMUTは2次元アレイ化され、CMOSの送受信回路と3次元集積して、それぞれのPMUTを独立に制御することが出来る。そのため、フェーズドアレイレーダ同様に超音波を電気的にスキャンすることが可能となる。なお、米国のスタートアップeXo Imaging社はすでに100億円の資金を集め、FDA(米国食品医薬品局)の認証に向けた製品開発を行っている。
また、カテーテルの先端に超音波送受信機を装着し、血管の壁の様子を見るIVUS(intravascular ultrasound:血管内超音波検査)も実用化されている。空間分解能を上げるため、超音波の周波数を体外用の10MHz程度から60MHzまで上げている。そのためにはセラミックスの表面に切り込みを入れるなどの工夫がされている。小型化の可能なPMUTはそこでも有力な対抗馬となり得る。 なお、話はずれるが、医療用の超音波デバイスは診断だけでなく治療用としても各種応用が期待できる。癌細胞を狙って集束超音波を照射し、温熱効果で治療するもの、骨折部に照射して回復を早めるもの、あるいは神経細胞に照射して各種神経性の疾患の治療を行うものなどが検討されている。
また、PMUTは3D-ToF(Time of Flight)や偽造の難しい指紋センサへの適用が検討されている。前者は介護施設の見守りセンサやタブレット端末のジェスチャー入力としての応用が期待されている。今後各種応用が拡がって行くと考えられる。

2-3. 生体センサ

世界的に高齢社会へ向かう中、ヘルスケアやオンライン診療に使用する生体センサの関心が高まっている。光学技術など実現技術はいくつかある中で、圧電技術も有力な候補である。例えば呼吸や心拍あるいは心音を圧電薄膜による加速度/圧力センサで評価する検討は進んでいる。圧電セラミックスや有機圧電薄膜がセンサとして使われている。電子聴診器をスマートフォンに接続し、クラウドベースで異常心音を検出し、医者からのフィードバックを受けるといったサービスも実用化されている。ウィズコロナでオンライン診療の普及が予測される中、このようなポータブルな診断装置に対する需要は従来の予測を超えて増えて行くものと考えられる。
有機圧電薄膜は無機材料にない物理的柔軟性(フレキシビリティ)がある。体表に貼付して常時計測するあるいは2次元的に計測することも可能になる。フレキシブルエレクトロニクスと組み合わせることも有望である。3次元的な心音の分布を評価することで、血管の異常部位を特定することも可能になる。また、椅子やベッドに埋め込むシート型の非接触生体センサも実用化に向けた検討が進んでいる。心拍、呼吸、体動および音声を総合的に評価することが出来る。負担を掛けない自然な形でのヘルスケア計測や、介護施設での見守りといった応用が想定されている。自動車のシートに備え付け、ドライバの眠気や発作などの異常を検出して適切な対応を行う車載システムなども提案されている。また、作業服や軍服の外に貼り付けて、環境センサとして利用するといった応用も検討されている。

2-4. ハプティクス

ハプティクスは触覚を提示する技術で、AR/VRとともに必要とされる技術である。その実現には圧電材料が多用されている。いくつかの応用が提案され、一部は実用化されているが、まだ普及フェーズになるには紆余曲折が予想される将来技術である。
自動車のインターフェースとしてボッシュやコンチネンタルなどのメガサプライヤー(Tier1)が検討している。操作ボタンが実物でなくディスプレイに表示されたものになっていっている。触った感覚がドライバにフィードバックされた方が誤動作を防ぐ意味からも好ましい。
圧電セラミックスを用いた振動板を1Hz~1kHzの人間の刺激帯域全体に渡り振動させ、人間の感覚に合わせた触覚フィードバックを実現するデバイスが製品化されている。自動車,産業機器,スマホ,医療器具,ゲーム等への応用を想定している。また圧電素子による超音波振動によりタッチパネルと指との間の摩擦力を変化させ、ツルツル感やザラザラ感を画面の表示に合わせて体感できるようにした触覚ディスプレイの試作も行われている。
10本の指先に装着してVR/ARの映像や動きに合わせて触覚をフィードバックするコンセプトは、VR/ARの操作性を高める上で期待される応用分野である。いくつかのスタートアップが覇を競っている。VR/ARの画像に合わせて圧電素子で刺激を与えるもので、触覚拡張技術とも呼ばれている。ロボットの指を遠隔操作で動かす場合に、ロボットハンドが掴んだ感覚をフィードバックするシステムもある。障害のある人のリハビリとしての使い方もある。
超音波送信器を2次元アレイ状に並べ、10cm以上離れた空中の手に超音波を当てることで、触覚フィードバックを発生させる。やや大掛かりにはなるが、手には何も装着する必要はない。英国のスタートアップが製品化をしている。

3. 最後に

圧電材料やデバイスは古くて新しい技術である。圧電材料はセンサとしも、アクチュエータとしても使えるところが面白い。センサの時代からアクチュエータの時代になるとの予測もある。MEMS技術やフレキシブル技術と融合して、今までにない応用領域を開拓するのではないかとの期待に溢れている。

 

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