コラム

テラヘルツ波の光ファイバ無線技術(テラヘルツ・オーバー・ファイバ)

2022.03.09

テラヘルツ波の光ファイバ無線技術
(テラヘルツ・オーバー・ファイバ)

1. テラヘルツ・オーバー・ファイバ(THz-over-Fiber)の概要

テラヘルツ・オーバー・ファイバ(THz-over-Fiber)は、まだ馴染みの薄い技術用語である。英語で省略するとToFとなり、iPhoneなどに搭載され対象物の3次元計測を可能にするTime-of-Flightを想起する方が大部分と思われる。THz-over-Fiberは、光ファイバ無線(RoF:Radio-over-Fiber)の一種で、無線信号が100GHz以上のテラヘルツ波であること、基地局間の伝送だけでなく送受信機からアンテナまでも短距離でも使用されることがいわゆるRoFとの違いである。アンテナへの最後の伝送という意味で、FTTA(Fiber-to-the-Antenna)の名前で呼ばれることもある。
Beyond 5Gで通信にテラヘルツ波が多用される時代には、この用語は広く使われるようになると思われる。テラヘルツ波を電気信号のまま伝送するには導波管のような低損失の伝送路が必要になるが、光ファイバに比べると高コストで、柔軟性に欠けるため設置も容易でないことがその背景にある。

2. THz-over-Fiberのシステム構成と構成部品

THz-over-Fiberシステムの概略は図1に示すようなものである。狭線幅のローカル半導体レーザ(LD)の出力を光ファイバでマッハツェンダ光変調器(MZM)に導き、テラヘルツ波で変調することによってテラヘルツ波信号を光に乗せ換える(アップコンバートする)。ローカルLDの周波数の上下に信号が生成されるので、その一方のみを光バンドパスフィルタで選択して光ファイバで伝送する。必要により半導体光増幅器などで信号を強める。有線では短距離しか伝送できないテラヘルツ波を1km以上の長距離で伝送することが可能になる。
受信側では同じ周波数の狭線幅のローカル半導体レーザ(LD)と合波することで、信号との周波数差に対応するテラヘルツ波領域のビート信号を発生させ、例えばUTC-PDのようなテラヘルツ波帯に応答する超高速のフォトダイオード(PD)で検波することで、元のテラヘルツ波に変換(ダウンコンバート)する。アンテナに接続しテラヘルツ波を空中に送信させる。O/E変換部はアンテナの極く近くに設置すればよい。

THz-over-Fiberシステムの概略ブロック図の画像

図1. THz-over-Fiberシステムの概略ブロック図

カールスルーエ工科大学(KIT:独)の研究グループは、シリコンフォトニクス(SiPh)を用いることでO/EおよびE/O変換部の小型に成功している。POH(plasmonic–organic hybrid)変調器構造を採用することで、360GHz以上の広帯域化を実現している。289GHzの無線キャリアを用い、QPSK変調で50Gbpsの伝送に成功した。

3. ビル内分散アンテナシステムへの応用

ビル内分散アンテナシステム(DAS)への応用も有力である。DASはテラヘルツ波でなく、ローカル5Gの世界で東芝などによって実用化が進められているシステムである。ミリ波は空中での損失が大きく、また障害物によって遮蔽されやすい特性を逆手に取ったセキュリティの高いシステムである。ビル内に分散して設置されたアンテナまでミリ波無線信号を光ファイバによるRoFで伝送する。アンテナの近くでミリ波に戻し、近傍の機器と通信する。障害物による電波不感や、敷地外への電波漏洩といった課題を解消した柔軟なローカル5G環境を構築できるという。
THz-over-Fiberとの親和性が極めて高いシステムと言える。アンテナを分散させることで、テラヘルツ波の直進性による欠点を補い、ビル内全体にBeyond 5Gの通信環境を構築することが可能になる。また、ミリ波以上に電波漏洩や隣のエリアとの干渉も防ぐことができる。SiPhに使うことで、アンテナでのE/OおよびO/E変換も小型・低コストにすることも可能になる。

4. 最後に

以上紹介したように、THz-over-Fiberはテラヘルツ波の有線伝送の課題を解決するもので、Beyond 5Gにおけるテラヘルツ波の利用と切り離せない技術である。また、分散アンテナシステムに応用することで、テラヘルツ波の新たな応用分野を切り拓くキー技術であると考えられる。高周波のデバイス開発も含めて実用化が楽しみな技術である。

 

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