コラム

ダイヤモンド・パワー半導体の技術動向と今後

2022.03.01

ダイヤモンド・パワー半導体の技術動向と今後

1. パワー半導体材料の概要

ダイヤモンドは、SiC、GaNやGa2O3など他のワイドバンドギャップ半導体に比べても、大きなバンドギャップ、高い絶縁耐性、電子-正孔のバランスの良い移動度、および大きな熱伝導性から、究極のパワー半導体材料として期待されている。
しかし、室温において実現されているパワーデバイスはSi並で、GaNやSiCの後塵を拝している。その理由の一つは浅いドナー準位を持つ不純物がないこと(リンPで0.57eV)と言われている。結晶育成技術も含めて材料的な改善が求められている。

表1. 半導体材料の物性値の比較

半導体材料の物性値比較の画像

スイッチング周波数の応用を想定した場合のダイヤモンドとGaNあるいはSiCデバイスの理論的な特性を、ジャンクション温度を変えて比較すると、ジャンクション温度が高いほど、ダイヤモンドデバイスの優位さが顕著になる。ジャンクション温度が450K以上の使用環境、および3kV以上の高電圧領域でダイヤモンドデバイスの有利さが発揮される。
パワーデバイス応用分野で比較すると、EV用インバータ、電車、基幹系統配電系などほとんどの分野でSiCやGaNと重なる。冷却系にメリットはあるものの、同じ領域で競争するのは容易ではない。高耐圧領域は同時に大電流が必要で、チップの大面積化つまりウェハの大口径化と結晶品質の向上が求められる。特殊な用途では半導体製造装置や加速器などに使用されるパルス電源回路があるが、市場は限定的である。
このジレンマは今に始まったことでない。新しい材料を社会実装しようとすると必ず直面する問題で、粘り強く長年に渡り開発する忍耐が求められ、それを乗り越えて今日の各種材料が事業として成立している。
本稿では、ダイヤモンドの結晶成長技術とデバイス技術に分け、代表的な機関の取り組み状況を紹介する。

2. ダイヤモンド結晶成長技術

産総研はダイヤモンド・パワー半導体に長く取り組んでいる。単結晶成長では0.5インチ、単結晶接合型(モザイク)では2インチ大のウェハを実現している。産総研技術の移転ベンチャーとして発足したEDP により製造技術として実用化している。マイクロ波プラズマCVD法によるダイヤモンド合成において、微量窒素の添加とプラズマ集中により、毎時100μmを超える高速成長を実現し、最長で17㎜の厚さのダイヤモンドを合成することに成功している。
佐賀大学とアダマンド並木精密宝石は2インチ径ダイヤモンドウエハの量産技術開発に成功したと、2021年9月に発表し2022年の製品化を目指すという。2021年4月に発表したマイクロニードル法を改良したステップフロー方式で、サファイヤ基板にマイクロ波プラズマCVD(MPCVD)で成長させた後に、途中に挿入したIrバッファのところで分離する。
ドイツのスタートアップAudiatecは、Siウェハ上にYSZ(yttria stabilized zirconia)を介してIrを堆積させた基板を用い、その上にマイクロ波プラズマCVDで単結晶ダイヤモンドを成長させる技術を開発している。92mm径の自立ダイヤモンド基板の成長に成功しており、25mm角の種結晶などのダイヤモンド単結晶を販売している。

3. ダイヤモンド・パワーデバイス

米国のスタートアップAdvent Diamondは、ダイヤモンドPINダイオードを用いた放射線検出器と放射線環境下でも動作する高耐圧ダイオードを製品化している。放射線検出器はニュートロン、プロトン、α線、β線、Deep-UVおよびX線にそれぞれ最適設計できるという。高耐圧ダイオードは200 V/ 500V/ 800V/ 1200Vの製品で、高速動作する。放射線耐性があり、300℃まで動作可能である。
ダイヤモンドの高い熱伝導率を利用して、パワー半導体の基板に利用する動きもある。GaN-HEMTは5G基地局アンテナのマイクロ波パワーアンプとして幅広く使用されているが、動作時に極度に温度上昇するため性能が大きく制限されている。基板をダイヤモンドに替えることでGaN-HEMTの温度上昇を大幅に抑えることができる。大阪市大などの研究グループはGaNとダイヤモンドを表面活性化接合法で直接接合することに成功した。GaN-HEMTの温度上昇を従来の1/4に抑えられるという。

4. 最後に

ダイヤモンドは究極のパワー半導体材料である。しかし、すぐに理想は実現できなく、長い道のりが必要であるのは論を待たない。その一方で、現状の技術を何とか使いこなそうという取り組みも行われており、火を消さないためには必要なことである。
最後に、パワーデバイス以外のダイヤモンドの応用デバイスを紹介したい。ダイヤモンドのNVセンター(CをNに置き換えその隣に空孔Vがある欠陥)を高感度の磁場イメージセンサに使うアイデアである。タンパク質の構造解析からドラッグデリバリや免疫検査に適用される細胞計測に使えるという。量子コンピュータにも応用されている。

 

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