技術解説

DRAMとフラッシュメモリの隙間を埋める高速不揮発性メモリ技術

2025.02.05

DRAMとフラッシュメモリの隙間を埋める高速不揮発性メモリ技術

1. はじめに

プロセッサに接続されるメモリは古くからアクセス時間とメモリ容量で階層化され、仮想的メモリを構成している。図に示すように、プロセッサに一番近く、プロセッサが最も頻繁に使用するデータや命令を一時保管するキャッシュメモリ。通常プロセッサチップ内に集積化されているSRAM(Static Random Access Memory)が使用される。アクセス速度は速いがメモリ容量は限られている。その次に近いのがメインメモリと呼ばれているDRAM(Dynamic Random Access Memory)である。そこそこのアクセス速度とメモリ容量を兼ね備えている。これら2つのメモリは、電源を切ると消去される揮発性メモリである。その先にあるのが、ストレージと呼ばれるNANDフラッシュメモリである。電源を切っても記録が維持される不揮発性メモリである。当面の作業に使用しないデータやプログラムが蓄積されている。大容量であるが、アクセス速度は遅い。しばらく前まで磁気記憶装置であるハードディスク(HDD)が用いられていたため、SSD(Solid-State Drive)と呼ばれている。
それぞれの階層の中でもさらに細かく階層化されている。例えば、GPUでは3次元に積層したHBM(High Bandwidth Memory)と呼ばれるDRAMをGPUと同一PKGに集積化している。GPUとDRAM間の通信速度(帯域幅)を大きくして、実効的なアクセス速度を上げるためである。

CPUGPUに使用される半導体メモリの階層構造の画像

図. CPU/GPUに使用される半導体メモリの階層構造

 

例えば、筆者のディスクトップPCでは、キャッシュメモリは16MB、メインメモリDRAMは64GB、SSDは1TBである。AIデータセンターに盛んに導入されているNVIDIAのH100-GPUでは、キャッシュメモリ50MB、メインメモリ(HBM)80GB、GPU当たりのSSD約1.5TBであり、オーダ的には変わらない。
ところで、SRAMとDRAMのアクセス速度(時間)は、それぞれ約1nsと約10nsであり、1桁の差異しかない。これに対してSSDのアクセス時間は約1msとDRAMに対して5桁も遅い。この大きな隙間を埋めようとするのが、ストレージクラスメモリとも呼ばれる高速不揮発性メモリである。DRAMの高速性とSDDの不揮発性を併せ持つメモリである。不揮発性の物理現象を利用したいくつかのメモリ構造が研究開発されている。主なものとして、物質の相変化を利用したPRAM(Phase change RAM)、金属酸化物の抵抗変化を利用するReRAM(Resistance RAM)、カーボンナノチューブ(CNT)間の接触/分離を利用するNRAM(Nanotube RAM)、強誘電体の分極反転を利用するFeRAM(Ferroelectric RAM)、磁性材料の磁化反転を利用するMRAM(Magnetoresistive RAM)などである。大手企業やベンチャー企業を含めた開発競争が行われているが、DRAMとSSDの隙間を埋めるまでには至っていない。単に隙間を埋めるだけでなく、ニューロモーフィックと呼ばれる、ヒトの脳を模倣したメモリ中心の低消費電力AIが実現できるのではないかと期待されている。
本稿では、これらそれぞれの高速非揮発性メモリの開発状況について紹介したい。

2. PRAM(Phase change RAM)

2015年、IntelとMicronは相変化を利用したPRAMをPersistent Memoryと称して製品化した。垂直方向に離れたビットラインとワードラインのクロスポイントを相変化材料(Ge0.12Sb0.29Te0.54Si0.05)で接続し、熱によって原子間結合を変化させて抵抗を変化させるメモリである。3D Xpoint技術と命名され、製品名はOptaneである。詳細な動作原理は公開されていないが、アモルフォス相と結晶相の相変化を利用しているものと思われる。書き込み遅延時間がNANDフラッシュの数十分の1から数百分の1の500nsと高速であり、かつ不揮発性であることから、DRAMとSSDの隙間を埋めるメモリであるとの触れ込みであった。
当時としては最先端の20nm微細加工技術を用い、垂直方向に4層縦積みすることで、Siダイ当り256Gbitを実現する。読み出しアクセス(遅延)時間は100ns、書き込み遅延時間は500nsと高速で、データ保持期間は7年であるという。
しかし、Optaneを活用するためには、OSやソフトの書き換えも必要で、市場には受け入れなかった。そのため、Micronは2021年に同メモリの開発休止と製造拠点の売却を発表した。頑張っていたIntelも、2022年に同メモリ事業を段階的に縮小するとの事実上の撤退発表を行った。

3. ReRAM(Resistance RAM)

抵抗変化型メモリ(ReRAM)の一種にCBRAM(Conductive Bridging RAM)がある。酸化ハフニウムなど金属酸化物を電気的に活性な電極(Cu)と不活性な電極(Pt)で挟んだ構造である。動作原理は次のようである。一定の電圧を印加すると導電性イオン(Cu+)が金属酸化膜中を移動し、やがて導電性フィラメントを形成して抵抗となる。一定の逆電圧を印加すると、導電性イオン(Cu+)がCu電極方向に移動し、導電性フィラメントが断線し、高抵抗となる。
開発したAdestoTechnologies社(米国ベンチャー)の2016年の論文によると、メモリ容量は32-256Kb、クロック周波数は1MHzで、10万回の書き換え耐性があるという。そこそこ高速動作するものの、メモリ容量は小さい。
同社は2020年に米国中堅企業Dailog社に買収され、その後Dialog社ごとルネサスに買収された。さらに2023年2月にルネサスはCBRAM技術を大手ファウンドリGlobalFoundries(GF)へ売却した。CBRAM技術 はGF社の22FDXプラットフォームで認定されており、他のプラットフォームにも拡張する予定とのことである。つまり、メモリ単体ではなく、ロジック回路への組み込み集積化を指向しているものと推定される。

4. NRAM(Nanotube RAM)

CNTを用いたNRAMは、Nantero社(米国ベンチャー)が富士通などと共同開発を進めている。DRAM並の書き込み速度10nsと大規模化(64Gb)を目指しており、大変魅力的であることから、同社は既に$141Mの資金を獲得している。ただし、試作例では100ns/16Mbに留まっている。2018年末までに製品化予定との計画もあったが、残念ながら未だに製品化されていない。
産総研はCNTの活用先としてNRAMも検討している。日本ゼオンはNEDOプロジェクト「光に適合したチップ等の高性能化・省エネ化 不揮発メモリ開発」にNRAMを提案し、採択された(2022年2月)。光I/Oとの整合性が良い不揮発性メモリとの位置付けである。

5. FeRAM(Ferroelectric RAM)

FeRAMは、DRAMのキャパシタを強誘電体に替え、分極反転によるヒステリシス特性を利用した不揮発性メモリである。DRAM並みの速度とSSDの不揮発性を併せ持つものとして期待されていた。
2000年代初頭に実用化されたものの、量産時のコストが下がらないことから広く普及するには至っておらず、非接触ICカードの内蔵メモリなどに採用例がある程度に留まっている。
Infineonは製品化しているが、最大容量は16Mbに過ぎない。同社は車載や産業用途など高い信頼性を要求されるアプリケーションへの適用を想定している。

6. MRAM(Magnetoresistive RAM)

MRAMは、2つの強磁性体層(固定層と自由層)でトンネル障壁層を挟んだ構造で、2層の磁化の方向が平行だとトンネル障壁の電気抵抗が低く、反平行だと高くなることを利用したメモリである。自由層の磁化を反転させるのにいくつかの方式があり、電流により発生させた磁場で変化させるのがトグル方式、電子スピンを注入してそのトルクで変化させるのがスピン注入(STT:Spin-Transfer-Torque)方式である。STT方式の方が微細化に適している。
MRAM専業メーカEverspin Technologies社(米国:Freescale Semiconductor社から2008年に分社)がMRAMを製品化している。STT-MRAMは容量が1Gb(128MB)と十分とは言えないが、書き込み時間はDRAM並の約10nsと極めて高速に動作する。また、製品の書き換え耐性は100億回もある。NANDフラッシュメモリの書き換え耐性が数千回であることを考えると、驚異的な値である。同社はメモリ単体での販売を行っており、データセンターなどへの適用を想定している。
これに対して、Samsung社はロジック回路(MCU)へMRAMを集積化する技術をファウンドリービジネスとして提供している。2024年には車載グレード14nmプロセスへの集積化MRAMを提供する予定との記事もある。
2024年12月のCEATECで、TDKはMRAMを用いたニューロモーフィックデバイスを展示し、イノベーション部門賞を受賞した。同技術は東北大学と共同開発したものである。なお、東北大学は同技術を発展させたCMOS/スピントロニクス融合AI半導体を開発・展示しており、ネクストジェネレーション部門賞を別途受賞している。

7. おわりに

DRAMとSSDの大きなギャップを埋める、高速不揮発性メモリは、残念ながら大量に製品に導入されてはいない。いくつかの製品化の試みがあるが、MRAM以外は苦戦していると言える。しかし、他の技術でこの隙間が埋められたわけではなく、大きく口を開けた状態、つまり大きなチャンスが継続している。そして、大手半導体やベンチャー企業で、活発に研究開発が進められている。AIデータセンターが大きな市場であると思われる。独立したメモリとして製品化されてNANDフラッシュメモリを凌駕するのか?あるいはxPUの中の埋め込みメモリとしてニューロモーフィックといった新たな地平を拓くのか?
数年先のブレイクが楽しみであり、そのエコシステムがどうなるかについても気になる技術である。

 

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