技術解説

光電融合技術の研究開発動向とそのインパクト

2023.03.31

光電融合技術の研究開発動向とそのインパクト

1. 光電融合技術の概要

光電融合デバイスは、NTTの提唱するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)を実現するキーデバイスとの位置付けで、最近頻繁に喧伝されている。光・電子集積回路(OEIC)や光信号処理といった手垢のついた技術用語に替えて「発明」した用語といえる。電子の助けを借りて光信号処理することで、従来に比べて約2桁の低消費電力化が実現できる光波長変換デバイスに端を発し、そのコンセプトを実装技術まで拡大敷衍したものである。従来の光デバイスと電子デバイスの役割分担を見直し、その境界を曖昧にして、小型・高性能化と低消費電力を一気に進める技術と捉えることもできる。AIやDX同様、分かったようではあるが、ぼんやりとしていて解釈の自由度が高いところがミソである。
COSA(Coherent Optical Sub Assembly)やCPO(Co-Packaged Optics)は、Siフォトニクス技術を用いて光変調器や受信器をモノリシック集積化し、DSPやASICといった大規模なデジタル集積回路と同一基板上に実装する技術である。これが、光電融合技術の第1段階である。CPOはある意味で光入出力(I/O)を持つLSIと見なすこともできる。同一ボード内のLSIをこの光I/Oで接続するのが第2段階である。さらにLSIの内部にも光技術を入れて光信号処理を行うと同時に、光技術では実現の難しいメモリは電子技術で実現するのを第3段階と位置付けている。消費電力を100分の1まで低減するのが目標・目的となっている。IOWNでは第3段階を2030年以降としているが、光量子コンピュータや光ニューラルネットワークでは、既にこのコンセプトを取り入れ製品化しているベンチャー企業も現れている。カギになる基盤技術は、いずれもSiフォトニクス技術(別稿「シリコンフォトニクスの課題と応用例」にて解説)である。
いずれにしても、広い意味でも光電融合技術の進展には目を見張るものがある。本稿では、この動きの激しい光電融合技術の研究開発動向とそのインパクトについて、できるだけ分かりやすく解説していきたい。

光電融合技術のロードマップの画像図1. 光電融合技術のロードマップ

2. COSA(Coherent Optical Sub Assembly)/CPO(Co-Packaged Optics)

データセンタ間が連携して一つの大きなデータセンタとして機能する動きが加速しており、データセンタ間を接続する大容量光トランシーバへの需要が高まっている。具体的には400Gbpsの伝送速度で120km伝送できるデータコム用小型トランシーバで、400GZRとして業界標準化されている。1ファイバ&1波長で400Gbpsの大容量伝送するため、8値の多重化(16QAM:直角位相振幅変調&偏波多重)変調方式とデジタルコヒーレント技術が採用されている。複数の変調器や受信PDが必要で、Siフォトニクス技術を用いて小型化を実現している。さらにデジタルコヒーレントの復調信号処理をするために大規模なDSP(デジタル信号処理)が必要となる。このSiフォトニクスとDSPを1つのPKGにハイブリッド集積化したのがCOSAと呼んでいる光電融合モジュールで、NTTエレクトロニクスが製品化を行っている。なお、同様なモジュールは米国Ciena社が開発済みで、自社の400GZRトランシーバに搭載している。
データコム用光トランシーバとデータセンタ内のスイッチASICは歩調を合わせて大容量化が進んでいる。伝送容量400Gbpsのプラガブル光トランシーバ64個をPCB基板に搭載した25.6TbpsのスイッチASICの導入が進められている。次世代である800Gbps光トランシーバ/51.2TbpsスイッチASICへ移り変わろうとしている。2~3年で世代交代が進むほど、データ需要は高まっており、既に次々世代の1.6Tbps/102Tbpsの議論が始まっている。この場合、PCB内の伝送速度は200Gbpsになることが想定されており、もはや電気配線で伝送することは難しいとの認識になっている。仮に電気配線で伝送できたとしても、くずれた電気波形を再生するために大きな消費電力が必要になると言われている。
その解決策として有力なのがCPOである。PCB内を光でそのまま伝送し、ASICと同一PKG内でOE(光電子)あるいはEO変換するとのコンセプトである。MicrosoftとMeta Platforms(Facebook)が主導して設立したCPO Collaborationは、2021年2月に、3.2Tbps光トランシーバ(CPO)の要求ドキュメントを発行した。それにほぼ沿ったCPOを搭載した51.2Tbpsスイッチボードを米国Ragile Networks社が2022年3月のOFC(Optical Fiber Communication Conference and Exposition)で展示している。CPOはIntel製である。
CPOの中にレーザダイオード(LD)も含めるのか、外付けにして光ファイバでCPOに供給するのか、2つの方式が検討されている。LDは発熱源であることと、信頼性が電子デバイスに比べて劣ることが、外付け方式を進める理由となっている。ただし、プラガブルのLDモジュールは場所を占有するし、接続の光ファイバも取り扱いが面倒である。これに対してLDをCPO内に実装するとスッキリはするが、LDの信頼性を考えて、予備のLDも搭載する構造となっている。量子ドットレーザのように温度特性に優れ、かつ信頼性に優れたLDの開発が急務であろう。

3. チップ間光伝送

高性能のコンピュータを実現するにはプロセッサ(MPU/GPU)間を高速で接続する必要がある。米国スタートアップのAyar Labs社は、これらを接続する光I/Oの開発を進めている。接続光ファイバの本数を削減するため、8波長のWDM技術を用いる。また変調はCPOで使用されているMZ(Mach–Zehnder)干渉計でなく、さらに小型化が可能なリング共振器型を用いる。もちろんSiフォトニクス技術で実現する。波長ごとに変調した後に合波するのではなく、合波した後に変調するとの構成が取れ、レイアウトが簡略化できる。波長ごとの受信(受光)にも、リング共振器を用いる。簡単な構成であるが、ボード内やキャビネット内の短距離の接続には十分使えるという。1波長当たりの伝送速度は25Gbpsレベルである。8波長×8ファイバで1.6Gbpsの伝送が可能である。ただし、プロセッサのI/Oのスピードの動向からすると、さらに高速化が求められている。
最新のMPUやGPUは複数のチップをインターポーザ上にタイルのように並べるチップレット技術で実現されている。Intel、AMD、TSMCなどは、 2022年3月にチップレットの相互接続に関する規格を策定するための団体UCIe(Universal Chiplet Interconnect Express)を設立した。この中にAyar Labs社も参画しており、すでに光I/Oの議論が始まっているという。光I/O機能を分担するSiフォトニクスチップをチップレットの一つとして扱うとのコンセプトである。

4. 光信号処理

光で信号処理できれば速くて低消費電量が実現できるのはないかと古くから言われてきた。いくつかの光信号処理デバイスが提案されはきたが、電子(LSI)技術の進展は留まるところを知らず、それを超えることはおろかキャッチアップするのも困難であった。また、光デバイスでメモリを実現するのが難しいといった制約もある。その固定観念が覆るとの期待が持てる状況になってきている。
NTTは、2019年にナノ光変調器(EO変換)とナノ受光器(OE変換)を近接させて集積したOEO変換素子により光信号波長の乗せ換えに成功した。InP基板を用いたフォトニクスで、InP光導波路、InGaAsナノ受光器およびInGaAsPナノ光変調器を用いる。ナノ受光器への光制御エネルギーが従来のOEO型デバイスに比べて2桁小さい1.6fJ/bitであることを強調している。これがIOWN(光電融合技術)で消費電力を2桁さげられるとの根拠になっている。
光の干渉を用いると、光信号処理を簡単にできる。同位相の信号を光導波路で合波すると強め合い、逆位相の信号を合波すると弱め合う原理を使い、特にスイッチは必要としない。この動作原理はニューラルネットワーク(NN)との相性がよい。ニューラルネットワークの基本は積和演算であり、「積」のところは電子技術のメモリを用いてその信号経路(光導波路)の光の位相を調整すれば、光の伝送に従って自然に「和」の演算を行う。位相を高速に変化させる学習系には使いにくいが、学習した結果を用いる推論系には使える。またアナログ的な信号処理ではあるが、推論系では精度を下げる動きがあり、それとも合致する。MIT発のスタートアップLightelligence社は、以上のようなコンセプトに基づいた光電融合ニューラルネットワークの製品化を行っている。64×64の光演算エンジンを製品化し、最適化問題をGPUの約1/850の時間で解けるという。
光量子コンピュータも光信号処理の適用分野である。カナダのスタートアップXanaduが第1世代(8量子ビット)をクラウド上でサービス開始している。本件に関しては、別稿「量子コンピュータの実用化と今後」にて記載している通りである。

5. 光電融合技術の可能性

光電融合技術は、段階を踏んで進むというよりは、3つのステップで同時並行的に研究開発と実用化が進んでいる。基盤となるSiフォトニクスがファウンドリサービスの充実で、スタートアップがビジネス化を進めやすくなった「インフラ」の整備が、そのバックグラウンドにはある。共にCMOS製造技術を用いているわけで、光電技術がワンチップの中で自然に融合していく側面も見逃せない。
参入障壁が下がっている中で、想像以上のスピードで製品化が進展する可能性もあるし、通信やコンピュータ以外の応用へと拡がる可能性もある。例えば、自動運転やヘルスケアなどへの展開も見込める。そのインパクトは当初の想定を超える可能性が高く、今後の成長が楽しみな技術領域である。

 

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