技術解説

シリコンフォトニクスと光ファイバとの接続技術

2024.07.03

シリコンフォトニクスと光ファイバとの接続技術

1. シリコンフォトニクスと光ファイバの接続

光ファイバと半導体レーザなどの光部品の接続は光モジュールのコストの大きな比重を占めてきた。ボールレンズやマイクロレンズなどの光学部品を用い、レーザを発光させ光ファイバとの結合状態をモニタしながら最適状態で固定するアクティブアライメントが通常用いられている。4個や8個の光源を実装した400Gbpsや800Gbpsの光トランシーバでも、ある意味で労働集約的な接続技術が使われている。より多くの光ファイバを接続するシリコンフォトニクス(Si-Ph)で同じ技術を用いたのでは、従来の1/10のコスト要求を満足することはできない。しかも、シリコンフォトニクスでは、送信(光源)側だけでなく、受信(フォトダイオード:PD)側もシリコン光導波路を用いるので、従来の2倍のクリティカルな接続が要求される。
シリコンフォトニクスはSi(CMOS)ファウンドリでウエハプロセスが行われる。検査・組み立ても、光組み立ての専門業者ではなく、できればOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)と呼ばれる量産事業者に委託するのが自然な流れである。Si(CMOS)事業者と光半導体事業者との「カルチャ」は異なる。Si(CMOS)の検査および組立は、完全自動化ラインを用い、ウエハレベルで検査・実装し最終検査する。億というオーダーの個数を低コスト・大量生産する。このようなシリコン集積回路産業のカルチャに適合したシリコンフォトニクスの検査、および光ファイバとの接続技術が求められている。合わせマークを用い、レーザを発光させないパッシブアライメントが望ましい。そのためには、ある程度の合わせ余裕度のある接続技術であることが求められる。
シリコンフォトニクスと光ファイバの接続方法には、大きく分けて2つの方法がある。一つはシリコンフォトニクスチップの端面(エッジ)から水平方向に光を出射・入射させて水平に設置した光ファイバと接続する、いわゆるエッジカプリングである。他の方法は、シリコン光導波路にグレーティングを形成し、斜め上方(ほぼ垂直)に光を出射・入射させて光ファイバと接続する、いわゆるグレーティングカップリングである。それぞれ、利点・欠点がある。実用化を強く意識した試作品でも、2つのタイプが使われている。また、シリコン光導波路は0.2μm程度の光のスポットサイズ(モーフィールド径)であるが、シングルモード光ファイバのスポットサイズは10μm程度と大きさが異なる。接続の結合係数は両者の重ね合わせ積分で記述されるので、スポットサイズを揃える必要がある。一般にシリコン光導波路にスポットサイズ変換部を追加して、モーフィールド径を10μm近くに拡げて接続する手法が取られる。また、合わせ余裕(マージン)を大きくするには、レンズ系などの中間物を介する必要も出てくる。
図面は、現在実用化に向けて検討が進んでいる、上記2つのタイプの代表的な光接続技術と、それに必要な光軸の合わせマージンを示したものである。以下では、技術の具体的な内容とその課題等について記述していきたい。

代表的な光接続技術と光軸合わせマージンの図

図1. 代表的な光接続技術と光軸合わせマージン

2. エッジカプリング

エッジカプリングの代表例は、シリコン基板にV溝の加工を施し、そこに光ファイバを設置し、シリコン導波路に対してバットジョイント(突合せ接続)する手法である。接続点近くのシリコン光導波路にはスポットサイズ変換機構を施す。V溝はアレイ光ファイバとの接続に古くから用いられてきた手法である。シリコンフォトニクスがこの手法と整合性がよいのは、シリコンフォトニクスのシリコン基板を直接V溝加工すればよいからである。IBMやIntelで開発が進んでいるだけでなく、ファウンドリ大手のGlobalFoundriesでは量産メニューとしてこの手法を提示している。
光ファイバの径が125μmであり、その中心にコアが存在するとの光ファイバの加工精度の高さが、この技術のバックグラウンドである。シリコンのウェットエッチングの結晶方位依存性を用いると、高い精度でV溝を形成できる。V溝の開口幅を145μmとして光ファイバを設置すると、シリコン基板表面位置に光ファイバのコアが来ることになる。
スポットサイズ変換にはいくつかの手法がある。シリコン光導波路を幅方向に先細りのテーパ状に加工するとともに、誘電体の厚膜クラッドで覆う。スポットサイズ変換部のシリコン光導波路の長さを300μmとすると、TEあるいはTMモードの結合損失は理論計算で0.12dBあるいは0.05dBとなり、損失は小さく偏波(TE/TM)による差も小さい。テーパの替わりにメタマテリアルを用いることもできる。300nm程度の周期でシリコン光導波路の幅を波打たせ、結合部に近くなると周期的な島状にする。全体の長さはテーパの場合と変わらない。IBMがこのメタマテリアル技術の開発をしており、スポットサイズ変換部、光ファイバとの接続部およびMTコネクタの損失も併せて、総合損失で最小1.3dBの接続損失を実験的に得ている。光のバンド幅100nmに対するロールオフは0.7dBである。
厳密にはエッジカプリングではないが、その変形としてのポリマー光導波路を介した接続は、合わせマージンを大きくする技術でもあり、AGCとIBMが共同で開発を進めている。先細りのテーパ加工したシリコン光導波路のコアにポリマー光導波路のコアを近接させると、電磁波(光)の近接場相互作用によって、シリコン光導波路からポリマー光導波路に光が遷移する(逆も起こる)。6.5μm角のコア断面積を持つポリマー光導波路を用い、その遷移長さを2mm程度とすると、近接場遷移損失はTEモードで約0.5dB、TMモードで約1.2dBと計算される。ポリマー光導波路のスポットサイズは、光ファイバとスポットサイズと合致しているので、良好な結合が期待できる。近接場結合の幅方向の合わせマージンはポリマー光導波路の幅でほぼ決まる。そのため、幅を9μmまで拡げてマージンを大きくする検討も行われている。凸状のポリマーコアと凹状に加工したシリコンフォトニクスを利用して、自己整合的(パッシブ)に両者をアライメントする。光ファイバとの接続についても、コネクタのフェルールとポリマーリボンの凹凸を利用して自己整合的にアライメントする。この手法で光ファイバとシリコン光導波路との結合損失の最小値として1.8dBを得ているが、期待値(1.5dB)より若干大きい。そのため、SiN光導波路をシリコンフォトニクス内に形成して結合損失をさらに下げる努力も行われている。SiN光導波路-ポリマー光導波路-光ファイバ間の最小損失として1.1dB、Oバンドのロールオフ損失0.4dBの良好な実験結果を得ている。
この近接場結合技術はポリマー光導波路に留まらず、ガラス光導波路にも適応可能である。コーリングが精力的に開発を進めている。ガラス基板にAg-Naのイオン交換を施すことで光導波路を形成する。また、ガラスにガイドピン加工をすることで、MPO類似の光コネクタをガラス基板に固定し、光ファイバアレイを着脱可能なコネクタ接続にできる利点もある。16(チャネル)アレイの光ファイバを用い、平均の結合損失1.33dBとの実験結果を得ている。4回の篏合サイクルを繰り返しても、アクティブアライメントに比べて0.2dB以下の結合損失増加(劣化)に収まっている。
イスラエルのスタートアップTeramountは、合わせマージンが±30μmと大きいユニークな接続技術を開発している。シリコンフォトニクス上にポリマー光導波路を形成し、近接場カップリングさせるとともにスポットサイズを大きくして水平方向に出射させる。シリコンフォトニクス内にMEMS加工技術で作成した傾斜ミラーで斜め上方に光を曲げる。光ファイバはシリコンフォトニクスの上方に水平に設置した基板のV溝に固定しておく。斜め上方に出射された光をいきなり光ファイバに入射させるのではなく、上方シリコン基板に加工した凹面鏡で反射させてコリメートした光を下方に返し、下層のシリコンフォトニクスに加工した凹面鏡で光を反射させ、上面シリコン基板の傾斜ミラーを経由して光ファイバ端面に焦点を結ばせて接続させる。複雑な構成のようではあるが、個別部品で構成するのではなく、シリコンフォトニクスおよびシリコンV溝基板のMEMS加工で実現できるので、コスト増は招かない量産に適した技術であるという。合わせマージンの大きさや着脱コネクタへの適用可能性は魅力的である。2023年3月には、コネクタなどの日本大手I-PEXおよびシリコンファウンドリ大手Tower Semiconductorとの提携を発表し、実用化に前進している。さらに、2024年のOFCでは、GlobalFoundriesおよび短距離光I/O技術を推進しているAyar Labsとも共同して、着脱コネクタの動態デモを行っている。

3. グレーティングカップリング

シリコン光導波路を幅方向に拡がるテーパ形状とし、拡がった部分(約10μm幅)のシリコン光導波路膜厚にグレーティング加工を施すと、光は波長に応じて斜め上方(あるいは下方)に出射する。逆に、斜め上方から入射した光はシリコン光導波路と結合する。テーパ形状(長さは400μm程度)によって、光ファイバに合わせた形のスポットサイズに変換される。出射方向の斜め上方に光ファイバを設置することで、シリコン光導波路と光ファイバとの接続が実現できる。結合最小損失0.85dB、1dBバンド幅47nmの良好な実験結果を得ている。
グレーティングカップリングのメリットは、斜め上方から光を出射/入射するため、ウエハ状態でシリコンフォトニクスの試験を簡単に行えるところである。電気プローブの替わりに光ファイバプローブを設ければ、全自動で検査することができる。シリコン集積回路の検査と類似した検査となることから、Si-OSATとは整合性の良い技術と言える。
グレーティングカップリングのデメリットは、は偏波依存性が大きいことである。通常の平行なグレーティングを採用すると、TE波は低損失で結合するが、TM波はほとんど結合しない(結合損失24dB)。波長無依存なグレーティングカップリングの研究も進められている。その一つが格子状のグレーティングにすることである。縦横の周期およびフィルファクタ(周期に対する凹部比率)を変えることで、TE波とTM波の実効屈折率が一致する点(交差点)が存在する。この条件を用いれば、接続効率の偏波依存性がなくなるはずである。理論計算ではあるが、交差点で結合損失1.9dBの偏波無依存の接続を予測している。
光ファイバを光学(実装)部品の内部に固定するとともに、内部で約90度湾曲させることで、水平方向に光ファイバを取り出すことができる。Ayar Labsが採用している技術である。簡単な方法であるが、±1μm程度の合わせ精度が要求される。
レンズ系を用いると合わせマージンを大きくすることができ、また着脱可能にもなる。シリコンフォトニクスの出射/入射面にマイクロレンズアレイを一体成型した光学部品を近接させる。レンズでコリメートされた光を全反射レンズで約90度曲げて水平にするとともに光ファイバ端に焦点を結ばせる。シリコンフォトニクス基板にマクロレンズアレイ付レセプタクルを固定し、全反射レンズと光ファイバを備えた光学部品をコネクタとすれば、着脱可能になる。BroadcomやUS CONECなどが開発を進めている。コネクタを安価な樹脂材料に替えようとする動きもある。
日本のスタートアップであるアイオーコアはユニークな技術を採用している。シリコンフォトニクスチップを封止する蓋の部分に、斜めに貫通する光ピンと称するポリマーの光導波路を形成し、グレーティングカプラで斜め上方に出射された光を結合させる。光ファイバは合わせマージンが±10μm程度と大きなマルチモード光ファイバを用いる。マルチモード光ファイバを用いるのは同社だけである。なお、マルチモードの光をシングルモードのシリコン光導波路に結合させるのは無理なので、フォトダイオードには光ピンから直接入射させる。

4. 接続技術の標準化

シリコンフォトニクスと光ファイバとの接続技術は地味ではあるが、コストに占める比率は高く、量産には重要な技術である。また着脱コネクタを用いる場合には、自社製品(光I/O付きASIC)と他社製品(光パッチコード)とのインタフェースとなるため、相互接続のための標準化が必要になる。現在、多くの接続技術が競合して開発されているが、数年内に集約され、標準化が進んでいくものと考えられる。標準化から外れた技術は、自社製品に適用範囲が限定されるなど、拡がりを欠くばかりでなく、コストダウンの流れから取り残されてしまう。
その意味からも、接続技術の動向を捉えておくことが重要であり、非常に変化の激しい業界であるため常にウォッチングしていく必要がある。

 

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