2020.04.19
断熱材は私たちの日常生活では直接目に留まることは少ないが、熱エネルギーを有効に使用することにおいて非常に幅広く使用されている重要な資材である。これらの断熱材は、適用する温度領域(低温~高温)、使用する原材料の種類、製品形態(板状、繊維状など)などにより分類されるが、使用する原材料により大別すると以下の通りである。
上記のうち、有機系断熱材の中心になる構成材料が高分子系原材料であり、成形性が優れ、各用途分野で幅広く採用されているため本記事で取り上げた。
(1)構成原材料
高分子系断熱材の主原材料は発泡プラスチックであり、ポリウレタン(PUR)系、ポリス
チレン(PS)系、ポリオレフィン系(PE、PPなど)、フェノール樹脂(PF)系、メラミ
ン樹脂(MF)系、塩ビ(PVC)系などのプラスチックを発泡成形したものである。これら
のうち、PUR系、PS系及びポリオレフィン系を3大発泡プラスチックと呼び、全体需要の
大半を占めている。また、発泡成形する際に、そのまま単独で成形する場合、他の材料
(例:面材など)と複合化する場合などがあり多岐に及んでいる。
(2)特徴(長所・短所)
高分子系断熱材は元の原材料の特徴をそのまま引き継いでいるが、更に多くの特徴を持っ
ている。長所としては、軽量高強度、高断熱性、高成形性、複合化可能、可撓性などがあ
る。短所としては、可燃性が高くなること、耐久性が低下すること、耐熱性が低下するこ
となどがある。これらの長所を伸ばし、短所を改善することが大切であり、これらの原材
料を展開する際の重要なキーポイントになる。
発泡プラスチック全体の需要(生産量)は、2018年では600千トン程度であり、プラスチック全体の約6%程度である。このうち断熱材分野において使用される量は、発泡プラスチックの約半分程度であると推察される。
高分子系断熱材の用途分野別の採用状況の概要は以下の通りである。尚、これらは主な用途の一例を示してものであり、これらに限定されるものではない。
用途分野 | 具体的用途 | 高分子系断熱材の採用状況* | 備考 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
PUR系 | PS系 | オレフィン系 | その他 | |||
土木建築関係 | 戸建住宅,集合住宅,冷蔵冷凍倉庫 | ◎ | ◎ | ○ | ○ | PF系,PVC系の採用あり |
輸送機関係 | 乗用車,トラック,保冷車,電車,船舶 | ◎ | ○ | × | ○ | MF系の採用あり |
電気電子関係 | 断熱機器,自販機,ショーケース | ◎ | ○ | ○ | ○ | PVC系の採用あり |
プラント・設備関係 | LNGタンク,原料・食品・飲料貯蔵タンク | ◎ | ◎ | × | ○ | - |
その他 | 日常生活用品,食品展示用品 | △ | ○ | ○ | △ | - |
(注)*高分子系断熱材の採用状況の凡例
◎:広範囲に採用されている。
○:比較的広範囲に採用されている。
△:多少採用されている。
×:ほとんど採用されていない。
高分子系断熱材に係る製品規格(JIS)は以下の通りである。
1)JIS A 9511:発泡プラスチック保温材
2)JIS A 9526:現場発泡PURフォーム
3)JIS A 9521:建築用断熱材(この中に発泡プラスチックも規定されている)
上記の規格の他に、経済産業省の新しいJIS適用の考え方(方針)として、従来のISO規格への整合性(翻訳JIS)ばかりではなく、高性能規格、高付加価値JISへの挑戦が試みられている(例:JIS A 9526 の燃焼性試験の追加検討など)。更に、上記の規格の他に省エネ基準として改正省エネ法(トップランナー制度、準トップランナー制度の適用)などがあり、高分子系断熱材の重要性が増している。
高分子系断熱材の断熱性などの代表的な性能の例は以下の通りである。但し、これは代表的な性能の一例を示したものであり、各材料間の性能を比較するためのものではないことに注意されたい。
PUR系 (汎用級) | BPS系* (保温板1号) | XPS系** (保温板3種) | PE系*** (30倍発泡) | |
---|---|---|---|---|
密度(kg/m3) | 35 | 36 | 33 | 35 |
圧縮強度(kPa) | 250 | 200 | 400 | 35 |
熱伝導率(W/mK) | 0.022 | 0.035 | 0.027 | 0.040 |
(注)*BPS系:ビーズ発泡方式によるPS系である。
**XPS系:押出発泡方式によるPS系である。
***PE系:ポリオレフィンの代表としてポリエチレン系を示した。
高分子系断熱材は多くの長短所を併せ持つものであるから、実際の使用の際には長所を活かして短所を改善することが重要である。特に重点を置くべき事項は以下の通りである。
1)難燃性の向上
2)耐熱性の向上
3)断熱性の経時変化の低減
4)発泡剤対策(地球環境対策、防火対策)
5)廃棄物対策(廃棄物の低減、リサイクル技術の確立)
これらの事項は一般のプラスチックと多くの側面で重複するところが多いが、異なるところもあるから留意する必要がある。前述のように高分子系断熱材の特徴を活かした製品開発・用途開発を進めることが重要である。
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