2022.02.20
波長より微細な周期的構造物からなるメタマテリアルは自然界に存在しない人工的な材料で、これを2次元にしたものがメタサーフェスと呼ばれている。特定の周波数帯域で負の屈折率を持つことから、バンドパスフィルタや小型・高効率のレンズ、あるいは反射板などへの応用が検討されている。
メタサーフェスはバルク型と異なり、電磁波の損失が少ないことが大きな特徴であり、ミリ波/テラヘルツ波を用いる5G/Beyond 5Gでは大いに活躍すると期待されている材料である。特に、制御回路を付けて電波の反射方向をダイナミックに変化させ、移動するユーザを追跡する形で電磁波をピンポイントで届けることができる反射板は、直進性が高いテラヘルツ波を使うBeyond 5Gでは必要不可欠なデバイスになると期待されている。スマートサーフェス、リコンフィギャラブル反射板、あるいはインテリジェント反射板などと呼ばれている。電磁波の陰を避けるためには多くの基地局を設置する必要があるが、その代わりにスマートサーフェスを設置するのは低コストで現実的である。室内の壁や天井、ビルの外壁や窓に貼るイメージである。
図1. スマートサーフェスの概念図
本稿ではミリ波に使われるメタサーフェス反射板・レンズおよびテラヘルツ波のスマートサーフェスの開発動向について紹介する。
米国のスタートアップMetawave社は、ミリ波無線通信および車載レーダ用にメタサーフェスの開発を行っている。2017年の創業と若い企業であるが、ドコモやデンソーからの出資を受けるなど、日本の企業との繋がりも深い。
2018年にはドコモとメタサーフェス反射板を用いた実装実験を行っている。5G向けミリ波(28GHz帯)通信への応用を狙ったもので、基地局から反射板経由で車両移動局への伝送実験を行っている。また、2020年にはミライト社とビームフォーミング可能なメタサーフェス反射板の実装実験を行っている。ミライト社はライセンス契約を締結し、国内での販売を開始している。ミリ波も指向性が強く、室内伝送しようとすると障害物で電波の届かないところが出てくる。アンテナ(基地局)を設置する代わりに反射板を設置するとの考えである。
ドコモとAGCは窓ガラスにメタサーフェスレンズを設置することで屋外から屋内へ5G電磁波(ミリ波)を効率的に誘導する技術を2021年に共同開発した。メタサーフェスレンズで特定の場所(焦点)に電磁波を集め、そこにリピータや反射板を設けることで、建物内に5G通信環境を構築することができる。
2021年11月にAGCは、仏スタートアップGreenerwave社と共同でミリ波(28GHz帯)のスマートサーフェスを開発したと発表した。独自の低損失基板上に微細な周期構造のメタサーフェスを付与し、反射の位相を電子回路でコントロールすることで反射角度を任意に制御する。壁や天井に設置することで、屋内における電波強度分布を改善できるとの有効性をNTTおよびドコモとの共同実験で確認したという。
ミリ波以上に直進性の高いテラヘルツ波ではこの技術は欠かせない。電子科技大学(中国)の研究グループは、グラフェンを用いたスマートサーフェスを提案している。グラフェンに電圧を印加することでテラヘルツ波の反射位相をほぼ360度変えることができるという。グラフェンとテラヘルツ波スマートサーフェスとの相性は良いようで、NokiaやMITでも検討が進められている。
ポリテクニカ・デ・マドリード大学(スペイン)などの研究グループは、液晶を用いたスマートサーフェスを試作し、100GHz帯での動作を確認している。Merck社のマイクロ波用の液晶(GT3-23001)を使用した試作で、2013年の発表である。液晶は加工や大面積化および駆動回路の基盤技術も揃っていることから、実用化の障害は小さいと思われる。
以上紹介したように、メタサーフェスは5GおよびBeyond 5Gのミリ波/テラヘルツ波の無線通信で多用されるのではないかと推定される。基地局を多く設置したり、ドローン型移動基地局を利用したりするのと比べるとコスト的なメリットは大きい。低損失基板、電子的に制御可能なメタサーフェスの構造、あるいは低コスト・大面積化などの技術的な広がりも大きいと思われる。
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