2022.02.05
ポリウレタン樹脂塗料とは、塗料用の基体樹脂としてウレタン結合を含む成分(要素)を使用した塗料である。ポリウレタン樹脂塗料中のポリウレタン樹脂のウレタン結合も、他のポリウレタン樹脂製品と同様に、ポリオール成分とポリイソシアナート成分の化学反応により生成されるものである。
ポリウレタン樹脂塗料の種類(製品形態)としては、成分数により1液型と2液型に分類されるが、2液型が主体である。また、分散媒体により溶剤系、水分散系、無溶剤系に分類されるが、現時点では溶剤系が主体である。
ポリウレタン樹脂塗料の特長としては以下の通りである。
1)塗装外観が優れる
2)塗膜性能が優れており、耐久性に優れる
3)塗料、塗膜の設計の自由度が高い
4)硬化性に優れるが、特に2液型は低温硬化性に優れる
2020年の日本の塗料の全体需要(溶剤などを含む)は表1の通りである。塗料全体では1,486千トンであるが、その内、ポリウレタン樹脂塗料(溶剤系)は108千トンであり、全体の7%程度を占めている。
表1. 日本の塗料の需要(2020年 経済産業省統計【単位:千トン】)
品目 | 需要 (千トン) | |
---|---|---|
溶剤系 | アルキッド樹脂系 | 66 |
アミノアルキッド樹脂系 | 52 | |
アクリル樹脂系 | 78 | |
エポキシ樹脂系 | 111 | |
ポリウレタン樹脂系 | 108 | |
不飽和ポリエステル樹脂系 | 7 | |
船底塗料 | 14 | |
その他の溶剤系 | 68 | |
水系 | 390 | |
無溶剤系 | 91 | |
その他(その他の塗料,シンナーなど) | 502 | |
総計 | 1,486 |
(注)千トン未満は数値を丸めてあるため総計などが多少変動している。
ポリウレタン樹脂塗料用の原料としては、ポリイソシアナート、ポリオール、溶剤、着色剤、触媒、その他の助剤などが使用されるが、ポリイソシアナートはモノマーのままで使用されることは殆どない。予め、ポリイシシアナート成分とポリオール成分の反応により前駆体の形で得られるプレポリマー(前駆体)、ブロックドイソシアナート、親水性デスパージョン(PUD)などの形で使用される。
これらのポリウレタン樹脂塗料の製造に使用する素原料としてはポリイシシアナート及びポリオールであるが、その内、ポリイソシアナート類を表2に示した。大別すると、①芳香族型、②芳香/脂肪族型、③脂肪族型になる。①芳香族型は汎用タイプであり、塗膜は日光暴露により黄変する可能性が高く、②芳香/脂肪族型は黄変し難いがある程度黄変するので使用範囲が限定される。一方、③脂肪族型は無黄変型であるから、黄変の心配はない。これらのポリイソシアナートは応用分野、要求性能などに応じて使い分けている。また、これらのポリイソシアナートを含むポリウレタン樹脂塗料の素原材料は、労働安全衛生法、化管法、消防法などの法規制の対象になる場合が多いので、取扱い時には十分に留意する必要がある。
表2. ポリウレタン樹脂塗料に使用されるポリイシシアナート類
種別 | ポリイシシアナート名(略称) | 主な用途分野 |
---|---|---|
芳香族(汎用タイプ) | TDI | 黄変タイプ |
MDI | 黄変タイプ | |
芳香族/脂肪族 | XDI | 難黄変タイプ |
脂肪族 | HDI | 無黄変タイプ |
IPDI | 無黄変タイプ | |
H12MDI | 無黄変タイプ | |
H6XDI | 無黄変タイプ |
ポリイシシアナート成分以外の原料については紙面の都合で割愛した。他のポリウレタン製品の場合と同様であるものが多いため、それらを参照されたい。
ポリウレタン樹脂塗料の主な種類としては製品形態を考慮すると次の通りである。
もちろん、この分類以外のものもあるが、ここではそれらは割愛した。
1)1液タイプ:湿気硬化型(反応型)
2)1液タイプ:ブロック型(反応型)
3)1液タイプ:アルキッド型(反応型)
4)1液タイプ:ラッカー型(非反応型)
5)2液タイプ:ポリオール硬化型(反応型)
6)2液タイプ:親水性ポリイソシアナート型(反応型)
ポリウレタン樹脂塗料の種類に対応した製品形態、乾燥方法、主な用途などをまとめて表3に示した。
表3. ポリウレタン樹脂塗料の製品形態と主な用途
成分数 | 樹脂/硬化剤 | 塗料形態* | 乾燥・ 硬化方法 | 反応相手・ 硬化形式 | 主な用途 |
---|---|---|---|---|---|
1液 | 湿気硬化型 | S・N | 湿気・触媒硬化 | 湿気/NCO | シーラー,床用, 木工,皮革 |
ブロック型 | S・W・N | 焼付 | ブロックNCO の反応 | 家電,自動車, 電着,電線 | |
アルキッド型 | S・N | 酸化硬化 | 酸化重合 | 木工,船舶 | |
ラッカー型 | S・W | 常温乾燥 | 溶剤揮発 | フィルム, インキバインダー | |
2液 | ポリオール硬化型 | S・W・N | 焼付・常温硬化 | NCO/OH反応 | 木工,金属, 無機材料など |
親水性ポリイソ シアナート型 | W | 常温乾燥・焼付 | NCO/OH反応 | 車両,木工 |
(注)*凡例・・・S:溶剤系,W:水系,N無溶剤系を示す。
塗料業界においては多種類の化学物質を大量に使用することから、環境対応の重要性は当然である。ポリウレタン樹脂塗料においても同様である。環境対応を含めて、ポリウレタン樹脂塗料の課題と今後の動向をまとめると以下の通りである。
環境対応の要因としては、①塗料の原料、②配合、③成膜工程、④塗膜の性能などの側面がある。そのうち、①塗料の原料では石油由来原料から植物由来原料への転換(他のポリウレタン系製品と同様)などがあり、②配合では低VOC、有機溶剤から水系への転換、高NVなど、③成膜工程では低エネルギー化への挑戦として低温硬化特性への転換、UV硬化・EBCの利用などがある。更に、④塗膜の性能では高性能化・高機能化などがあり、次の項目で詳しく記述することにした。
塗料の機能性の付与、高機能化として、①塗膜の機械的特性、②光学的特性、③新規特性の付与、④自己治癒、自己修復性などの付与・改善などがある。そのうち、①塗膜の機械的特性では塗膜の高強度・高硬度、高伸度などがあり、②光学的特性では特性の改善、防曇性の向上などがあり、③新規特性の付与では抗菌性、生体適合性の向上などがある。特に、④自己治癒、自己修復性では、最近注目されている製品として、自動車用上塗り塗料、プラスチック用塗料などがあり、更なる高機能化が期待されている。
ポリウレタン樹脂塗料は他の塗料と同様に多種類の化学物質を多量に使用しているので、化学物質の適正管理・遵法管理が必要である。それらの化学物質を取扱う場合は、化審法、労働安全衛生法、化管法、消防法などが適用されるので留意が必要である。同業界では環境、安全・安心、健康に関する取組み、防災計画、注意喚起、自主行動計画などについて配慮されている。
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