2022.02.17
ポリマー光導波路は2000年前後に光スプリッタ、波長フィルタや光スイッチなどの石英系光導波路部品を置き換えるものとして、あるいはPCBの人手による光ファイバ配線をスマートに収容する技術として検討されてきた。多くの日本メーカも参入していたが、光バブルの終焉と共に下火となっていた歴史がある。ここにきて光電融合技術が再び注目され、ポリマー光導波路開発も復活の兆しがある。
当時との相違点は、EO(電気光学)ポリマーを用いて100GHz超の高速光変調器が実現できる見込みがでてきたことである。有機色素分子をポリマー中に分散・配向させ、その分極に起因する効果で光を変調させる技術である。Si光導波路とのハイブリッド構造も提案されており、シリコンフォトニクス(SiPh)との相性も良い。EOポリマー変調器用の代表的な導波路の断面形状を図1に示す。
図1. EOポリマー変調器用の代表的な光導波路の断面模式図
1991年に創業したLightwave Logic社はポリマー光導波路をコア技術とする米国ベンチャーである。光導波路を加熱して動作させる光スイッチの製品開発などを行ってきた。最近EOポリマーを用いた光変調器の製品開発を本格化させ、ほとんど売り上げもない状態ではあるが、2021年9月にNasdaq上場を果たした。光通信だけでなくLiDARへの応用も指向し、将来的には無線通信(RoF:Radio-over-Fiber)や医療あるいは光センサへの応用も視野に入れている。
動作原理はマッハツェンダ干渉計を用いた光変調器(MZM)である。ポリマー光導波路を伝搬する光をスプリッタで2つに分岐してEOポリマー導波路に導き、その一方に電界を印加することによってEO効果により光の位相を変化させる。その後コンバイナで2つの光を合波させると干渉効果によって光強度が変調される。有機色素分子のπ電子による電子分極に起因する、高速でかつ比較的大きなEO効果を利用する。そのため、電圧を小さくあるいは干渉計の寸法を小さくすることも可能になる。なお、電場を印加してEO色素分子を一方向に配向しておく必要がある。
上に述べたLightwave Logic社は50G/100G/200G対応の光変調器の製品化を急いでおり、次世代の800G/1.6Tの開発も進めている。多重方式によって変調器に要求される帯域は異なるが、例えば800Gを112Gbps/PAM4の8並列(8波長)で実現するには、変調器のマイクロ波(小信号)帯域として約40GHzが要求される。次々世代の1.6Tbpsあるいは3.2Tbpsを同様にPAM4で実現しようとすると100GHzを超える帯域が必要となる。
長崎大学の榎並教授の研究室では35%のフェニルテトラエン色素をドープしたアモルファス・ポリカーボネート(APC)を成分とするEOポリマーを用い、図1(a)のポリマー導波路型構造で130GHzのマイクロ波帯域を実現している。IEF(スイス)とワシントン大学の研究グループは、独自開発のモノリシックEOポリマーと図1(b)の金属スロット導波路型構造を用いて光変調器を試作し、170GHzの動作が可能であると主張している。
Si光導波路とEOポリマーを複合させたハイブリッド構造の光変調器はSiPhの変調周波数を向上させることができるものとして期待されている。なお、変調器の構造としてはMZM構造である。
カールスルーエ工科大学(KIT:独)では図1(c)のSiスロット導波路型のハイブリッド変調器を試作し、コヒーレント100 GBd×16QAM(400Gbps)の動作を確認している。また、九州大学横山教授と日産化学の研究グループは図1(d)のSi/ポリマーハイブリッド導波路型構造を用い、200Gbps(100GBaund×PAM4)動作に成功している。共同開発したアクリル系ポリマーに耐熱性を向上させるアダマンチル基を付加するとともに、フェニルビニレンチオフェン色素を結合させてEO効果を実現している。そのため、110℃の高温でも動作可能である。また変調電圧が1.8Vと低いことも特徴で、将来的にはCMOSで直接駆動することも可能であるとしている。
以上紹介したように、EOポリマーはSiPhに高速化の扉を用意するものであるといえる。
データ需要の増大に伴って光通信の高速大容量化が2~3年で2倍なるといった状況か継続している中、EOポリマーの果たす役割は大きいと考えられる。材料開発の競争も激しくなるものと思われる。
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