2024.05.21
ガラス基板は、高速・高周波特性に優れた回路基板でもあり、その内部に低損失の光導波路を形成することもできる。Siチップと熱膨張率の差が小さいので、インターポーザに適用する場合に樹脂基板に比べて大面積化が容易である。また、Siインターポーザより低コストである。以上のような理由から、ガラス基板は樹脂基板の技術的限界を超える回路基板材料として注目されている。
ガラスコアインターポーザは、ミリ波MIMOアンテナなどで実用化が始まっている。また、大規模メモリを混載するAI向けGPUやMPUのインターポーザ基板としての開発も進んでいる。低損失の光導波路を形成し、CPO(Co-Packeged Optics)向け光電融合インターポーザや、Siフォトニクスと光コネクタとの接続部分への適用を狙った開発も進められている。高出力短パルスレーザをガラス基板内に焦点を結ばせて照射することで、3次元光導波路作成するといった技術の検討も行われている。また、大面積の回路基板のコアにガラスを用い、光導波路を形成した光電融合基板に適用しようとの動きもある。
上記のようなガラス基板の応用技術に対して、表1はガラス基板の競合技術とそれぞれのメリット・デメリットを比較したものである。ガラス基板は量産技術として確立したものでないが、従来の回路基板の限界を打破する候補として有力であると考えられる。以下に、具体的な開発動向について触れてみたい。
表1. ガラス基板の競合技術とメリット・デメリット
ガラス基板 | 競合技術 | ガラス基板の メリット | ガラス基板の デメリット |
---|---|---|---|
ガラスコア インターポーザ | ガラスクロスエポキシ コアインターポーザ | 高スルーホール密度 スキューレス高速伝送 大面積 | 高コスト |
Siインターポーザ | 低コスト 高速・高周波伝送 大面積 | 低配線密度 | |
ガラス光導波路 | ポリマー光導波路 | 低光伝送損失 | 高コスト |
ガラス光電融合回路基板 | ガラスクロスエポキシ コア回路基板 +ポリマー光導波路 | 高速伝送 低光損失伝送 | 高コスト |
米国のスタートアップED2は、ミリ波AiP(Antenna-in-Package)の製品化をAGPT(Advanced Glass Packaging Technology)とのブランドで行っている。8インチ径の溶融シリカガラス基板(ウェハ)上にミリ波送受信チップを搭載し、反対面にパッチアンテナをウエハプロセスで形成し、その後個片化する。PCB基板に比べて量産性と拡張性に優れるという。また、Siウェハと違い、寄生容量が少ないため、100GHzまでの高周波に対応可能である。
同社と関係が深いのがインターコネクション大手のSamtecである。センサやRF、イメージセンサ、LiDARなどの次世代マイクロエレクトロニクス用にガラスコア基板を開発している。300μm厚のガラス基板にアスペクト比10:1程度の高密度のスルーホールを形成し、Cuを埋めてビア(TGV:Trough-Glass Via)を形成する。また、両面に再配線層を形成する。高品質のホウケイ酸ガラス、溶融シリカ(石英)、およびサファイアの材料メニューを揃えている。
Intelはガラスコア基板の開発を加速させている。10億ドル以上の投資をして、R&Dラインを構築した。液晶パネルのような方形の大きなガラス基板をコアとし、両面に3層の再配線層を形成する。クルーンルームの中で大きな基板を作業者が両手で持つ写真を公開している。2020年代後半には量産開始するとの計画を2023年9月に発表した。従来の有機基板に比べて10倍以上のスルーホール密度(100μm未満のTGVピッチ)が得られる。Siと熱膨張係数を揃えることができるため、より大きなインターポーザ基板(240mm角)にして、多くのチップを搭載することも可能になる。また、均質で低損失であるため、448Gbpsの高速伝送も可能であるという。ちなみに有機コア基板において、224Gbps伝送は極短距離に限られる。なお、細孔のスルーホールの形成には高出力・短パルスレーザ照射が用いられる。
国内勢では、大日本印刷が、2023年3月に、次世代半導体パッケージに向けた「TGVガラスコア基板」を開発したと発表している。半導体用フォトマスクやMEMSファウンドリーサービスなどを応用した技術である。パネルサイズを510mm×510mmにスケールアップし、2027年度に50億円の売り上げを目指すという。
ガラスコア基板とは少し話題が離れるが、生成AIブームでデータセンターにはGPUが主役になっている。約9割のシェアを誇るNVIDIAは2024年3月に次世代GPUであるGB200を発表した。2個のGPUチップをチップレットとして組合せ、現有のH100に対して2.5倍の計算能力にするという。さらに、チップレットで集積化している高速メモリHBMも2倍以上の容量にする。これらを搭載する基板(インターポーザ)は当然のことながら巨大化する。GPU性能は2年で3倍の高性能化が進んでおり、生成AIに対する旺盛な需要から考えると、その勢いは加速することはあっても、減速することはない。CMOS加工技術の微細化だけでは対応できず、チップ面積および搭載個数を増大させる必要がある。インターポーザを大面積化する上での障害の一つは、Siチップと有機基板の熱膨張係数の違いよる熱応力破損である。つまり、ガラスコア基板のようなSiの熱膨張係数に近づけた回路基板が求められている。また、スルーホールの高密度化は基板面積の縮小をもたらす。
ガラス光導波路とは、ガラス基板に含有されるNaイオンをイオン交換法でAgイオンに替えると屈折率が大きくなり光導波路のコアが形成されるもので、1970年頃にも発表のある古い技術である。溶融塩(硝酸塩)またはAg堆積薄膜を拡散源とし、加熱あるいは電界を印加することで、NaイオンとAgイオンが交換あるいは押し出される。Agイオンが拡散してできる光導波路のコアを基板表面から離して基板内に埋め込むため、Naイオンで表面部分のみ再イオン交換する、あるいは電界を印加し続けで基板内部にAgイオンをドリフトさせる手法が取られる。
Corningは本手法を用いたガラス光導波路インターポーザの開発を進めている。なお、最終的にはCPOの光電融合実装基板(インターポーザ)に適用することを狙っている。シングルモードガラス光導波路は波長1,310nm(データセンタートランシーバでよく使われるOバンド)に対して、伝送損失約0.1dB/cmとまずまずの値を得ている。隣接光導波路間のクロストークは、50μm間隔で-60dB以下と小さい。250μmピッチの光ファイバをガラス光導波路に接続し、50μmまで間隔を狭めてSiフォトニクスの光導波路に接続する。近接場(エバネセント)結合で接続する。個片化にはレーザ照射を用いる。端面が平坦で、端面研磨する工程を省くすることができる。
Intelは高出力・短パルスレーザをガラス基板に照射するレーザ直接描画技術によって、ガラス基板内部に光導波路を形成する技術を開発している。レーザ照査された部分の屈折率が大きくなり、光導波路のコアが形成される。焦点位置によって光導波路の位置を自由に設定できるので、3次元光導波路を容易に形成することができる。光導波路の伝送損失は0.2dB/cmであり、短距離の光導波路には十分使用可能である。Corningとは逆に、間隔の広いSiフォトニクスのアレイ光導波路からガラス光導波路に遷移させ、幅を狭めるとともに3次元化し、上下2列で250μmピッチのMPOコネクタの光ファイバに接続する。着脱コネクタが実現できる。ポリマー光導波路を用いても同様なことが実現可能ではあるが、熱膨張係数が大きいので、温度による結合係数が変動するとの懸念がある。その点、光ファイバと類似した材料のガラス基板では、その影響が抑制される。
トロント大学とHuaweiの研究グループは、レーザ直描3次元光導波路を用い、Siフォトニクスとマルチコア(12コア)光ファイバとの接続の検討を行っている。3次元ガラス光導波路を介して、シングルモード光ファイバとマルチコア光ファイバの接続実験を行っており、総合損失1.7dB(波長1,310nm)の良好な値を得ている。
前述のCorningは、CPOインターポーザ、つまり光電融合基板への適用を考えている。予備的な検討段階ではあるが、ガラス基板に凹状態の平坦な部分を形成し、その境界の段差部分に、Siフォトニクスチップをフェイスダウン・バンプ実装する。凹平坦部分に電気の配線層や貫通ビアを形成する。凸部分表面にチップ表面が接触し、Si光導波路とガラス光導波路が近接場接続する仕組みである。
Fraunhofer研究機構はガラスコア基板を用いた大面積光電融合回路基板(EOCB)の研究開発を行っている。光導波路は熱イオン交換法で形成する。ガラスコアの両面に樹脂材料(FR4)の多層配線を形成する。回路基板の大きさは350mm×465mmと本格的である。波長1,310nmに対して、マルチモード光導波路で0.03dB/cm、シングルモード光導波路で0.3dB/cm以下の伝送損失を得ている。シングルモードに関してはさらに低損失化の検討が必要であろう。PCB大手メーカーであるTTM Technologiesも研究試作に参加している。
AIデータセンターの高性能化競争が始まった今、ガラスコア回路基板技術は、従来の回路基板・インターポーザ技術の限界を打破する可能性を秘めた、光電融合に適した技術と言える。高速電気回路基板および光導波路基板といったそれぞれの開発が進んでいるが、それらを統合した光電融合回路基板に集約していくものと思われる。CPOや光I/Oへの適用例が増えていくであろう。有機基回路板・ポリマー光導波路とどのように競合し、役割分担していくのか、広い視点から本技術をウォッチングしていくことが重要であろう。
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Co-Packaged Optics(CPO)とフォトニック集積回路(PIC)